アドラーの中心概念、「目的論」「全体論」とは?

アドラーは、100年前の講演で次のように語っています。『人間の本性 人間とはいったい何か/興陽館』を引用してみましょう。

人が経験から非常にさまざまな結論を引き出す様子は、日常的に観察されます。たとえば、誤りをくりかえす人がいます。誤りを認めさせることができたとしても、その後の結果はさまざまです。本人自ら誤りから脱しようと考えることもあります。ただしこの結論はまれです。あるいは、もうずっとこうしてきたから、いまさら変えられないと答える人もいます。別の人は自分の誤りを親のせいだと言ったり、漠然と教育のせいにしたりします。そして、自分にかまってくれる人がいなかったとか、甘やかされたとか、ひどく厳しく扱われたとか言って、誤った認識にとどまるのです。

CBLコーチング情報局ではアドラーを「コーチングの父」として捉えます。アドラーの言葉は、さまざま紹介されていますが、このフレーズこそがアドラーらしさを物語っています。アドラーは決して「優しい人」ではなく、臨床心理学、カウンセリングのスタンスとしては、もっとも「厳しい人」と言えるかもしれません。

「自分が不遇であることを他者のせいにしてしまう」ことは、自覚無自覚は別として、多くの人に共通して表れる心理状況です。そのことをアドラーは全否定するのですね。ここを起点としてアドラーの理論は展開していきます。だからこそ多くの人が共感するともいえるのです。
アドラーが説く中心概念は「目的論」です。人は意識無意識に限らず、内在化している目的に向かって精神は流れているといいます。

「適応する」という概念にはすでに目標の追及の要素が含まれています。目標のない精神生活は考えられません。精神生活のなかにある動きや活力が向かう先には目標があります。つまり、人間の精神生活は目標によって決まるのです。考えるにしても、感じるにしても、望むにしても、そして夢を見るにしても、ぼんやりと浮かぶ目標によって決められ、条件がつけられ、制限され、方向が定められるのです。これは個人の要求や外界の要求、また要求に対して返す必要のある答えと関連して、ほぼ自然に行われます。

よく「自分には目標がない、目的を描けないで漫然と生きている」という声を聞くことがあります。アドラーは「そのような人はいない」と否定するのですね。
アドラーはフロイトやユングのように「無意識」を「意識」から分離させて研究することに興味がなかったようです。というより否定しています。喜怒哀楽、それらが混ざり合い交錯しているのが人であり、「意識・無意識」の視点では、複雑な人の心を捉えることはできない、とはっきり主張します。これが「全体論」です。

人間は分割できない統一体であり、意識と無意識、精神と肉体といった二分法ではなく、身体の各部分が有機的に関わり合い、調節され、それが行動、態度として表出するというのです。意識と無意識を溶かす表現…「ぼんやりと浮かぶ目標」「ほぼ自然に行われます」という言葉をアドラーは用いているのです。


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