
『夏帆』の感想文を書いてみようと思います。これまで、たくさんの春樹さん作品を取り上げ、コーチングに敷衍しています。ですから、今回もその流れでやってみることにします。
読み始めて早々に想起したのは、短編集である『神の子どもたちはみな踊る』に収録されている「かえるくん、東京を救う」でした。この短編集にいたく感動したこともあり、23年4月5日に公開したコラム(設定は架空のコーチング対話)で、語っています。
中期の最高傑作である『ねじまき鳥クロニクル』は、悪を究めたような存在をそのまま人物として描いているので、リアルに残酷です。「ドギつすぎる」と言ってもよいでしょう。春樹さん曰く「デタッチメントからコミットメント」を自ら実行すべく、通過儀礼としての苦行に満ちた作品です。だから次作である長編の『海辺のカフカ』に結実した。嫋やかな作品であり、心が洗われます。
その後の作品も「悪とは?」を追求する春樹さんですが、動物に擬人化されたメタファー(あるいは現実には存在しない人物)に「悪」を被せる作風に変化するので、“安心して”読み進めることができる。
『夏帆』は、現実と非現実が混淆するマジックレアリズム(春樹さんが用いるベースの手法)です。動物のメタファーが、最も多く顕われる小説に仕上がっています。ありくいの夫婦、ジャガー、シロアリの女王、そして猫も。
それから人間の中には、どっちに転ぶか分からない(善なのか悪なのか?)脇役も登場します。2023年4月12日に公開したコラムで、川上未映子さんとの対談である『みみずくは黄昏に飛び立つ』を取り上げていますが、その中で春樹さんは次のように語っています。引用します。
(村上)……免色だけは、彼がどのような人間で、何を考えて、どういう生き方をしているのかが、よく見えてこない。
(川上)書いていても、わからないってことですね。
(村上)わからない。だって、彼はどうとでも転べるんだもの。本当に得体の知れない存在なんです。僕にだって得体が知れない。だから、彼を中心にいろんなものが動いているという印象が僕にはあります。長い物語には、どうしてもそういう説明不能な存在が必要になってきます。
『夏帆』は……「これまでいろんな女性とデートのようなことをしてきたが」とその男は言った。「正直いって、君みたいな醜い相手は初めてだよ」……と失礼千万の男の言葉から始まるのですが(春樹さんの“掴み”は秀逸すぎる!)、このモーターサイクルの男(佐原)は、『騎士団長殺し』の免色がイメージされます。もっとも、免色はもう一人の主人公であり、佐原は明快に脇としての位置づけですが。
そしてもう一つ、多くの書評が、セクシャルなシーンがまったくないことを、“意外性”を込めて指摘しています。往年の作品には、主人公のセックスが微に入り細に入り描かれていますから…渡辺淳一を襲名するかの如く(笑)。ところが前作の『街とその不確かな壁』から、リアルなセックスは影を潜めている。70代半ばを迎えた春樹さんに変化が訪れた(笑)。
『夏帆』は、発刊されてまだ日が浅いので「ネタバレなし」を心掛けて書いてみました。
春樹さんは、「自身の父親に対する心情を踏まえた「父親との葛藤」を『猫を棄てる 父親について語るとき』で語っています。ところが、この『夏帆』では、「娘と母親の間に横たわるとても深い溝」に焦点を当て、その克服をテーマの中心に据えました。河合隼雄さんが紐解く「グレートマザー」です。ちなみに春樹さんは、河合隼雄さんへの追悼の言葉を『職業としての小説家』のあとがきで、次のように語っています。河合隼雄さんは、春樹さんにとってまぎれもないエグゼクティブコーチですね。
引用して今回の「コーチング大百科」を終えることにします。
僕がそのような深い共感を抱くことができた相手は、それまで河合先生以外には一人もいなかったし、実を言えば今でも一人もいません。
「物語」という言葉は近年よく口にされるようになりました。しかし僕が「物語」という言葉を使うとき、僕がそこで意味することを、本当に言わんとするところを、そのまま正確なかたちで、総体として受けとめてくれた人は、河合先生以外にはいなかった。そういう気がします。
そして大事なことは、僕の投げたボールが相手にしっかり両手で受けとめられている、隈なく理解されているという感触がこちらにありありとフィードバックされてきたことです。そういう手応えは、僕にとって何より嬉しいことであり、励ましになることでした。自分のやっていることは決して間違っていないんだと、肌で実感できたわけです。
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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