
<承前>
車には、「夜中に実入りも無い仕事で起こされちゃったぜ」、って感じの不愛想な運転手のおじさんただ1人だった。「私は先に帰ってお布団敷いとくから、H君はお父ちゃんと一緒に乗ってきてね!」と、かなりムチャ振りだなぁと思いつつも、タクシーで一足先に家に到着。布団を敷いて父を迎えた。
前回、「戦後思想界の巨人」とリスペクトされる吉本隆明さんの長女で、漫画家のハルノ宵子さん執筆の『隆明だもの』に収録されているエッセイの一つ「片棒」を取り上げ、隆明さんが息を引き取ったシーンを紹介しています。
死は厳粛です。ところが娘であるハルノさんの筆致は、悲痛な重さはどこにも存在しません。「思想界の巨人」であっても、最も身近な家族であり、世間体を一切排除したドキュメンタリーとして描かれます。何だか愉しくなってくる進行です(失礼)。引用は、搬送車が病院に到着したところ(前回の最後のシーン)、の続きです。H君の素性は特に説明されていないのですが、吉本家にとって家族に準じる存在のようです。
吉本家に搬送車が到着し、奥の客間まで運ぶのも一苦労。ハルノさん曰く「うちの廊下は後からムリクリ増設したので、とにかく曲がり角が多く担架がなかなか通らない」のですね。運転手、H君、ハルノさんの3人しかいない状況で、運転手が、「ダンナさんは頭の方を奥さんは足を持って」と、無遠慮に指示します。
お互い否定するのもめんどくさいので、にわか夫婦を演ずる。私は1ヶ月前に乳がんの手術をしたばかりだ。「手に力が入らないんですけど」と訴えたが、「足の方をしっかり持って!」と叱咤される。「もう庭の方から運び入れちゃいましょうよ」と言うと、「イェ! 家のご主人は玄関から入るべきです」と運転手氏、ミョ~なところが律儀だ。
何とか無事に(?)隆明さんを運び入れたところで、H君は吉本家から去るのですが、H君から「後から聞いたこと」をハルノさんは綴っています。H君のキャラが伝わってきて、とてもイイカンジのエピソードです(笑)。
後から聞いたことだが、車が揺れるごとにストレッチャーからグラリと落ちそうになるので、「ここで戦後最大の頭脳を落としたら、後々まで何を言われるか分からない」と、必死で押さえていたという。本当にH君にはエライ思いをさせてしまったが、関西人なので笑い話にしてくれる(関西人差別?)。「ま、いっか!」と、人に負担を感じさせないところが、彼の良いところだ。
生成AIとコラボレーションでつくった『隆明だもの』の書評で、“観察と記述の鬼”としてのハルノさんがクローズアップされます。隆明さんを父に持つ漫画家のハルノさんの表現力は別格です。同本には、ハルノさんの幼少期の思い出のエッセイも収録されています。「戦後思想界の巨人」である父親には、すごい人たちがわんさか集まっていたようで、その人たちのことを、子どもであったハルノさんがどう思っていたか、感じていたかを「虚心」に語っています。その言葉の一つひとつが躍動している!
午前3時半に一人になったハルノさんは、抱えていた〆切(極めて重要な仕事)に取り掛かります。点滅している留守番電話を無視して電話線を引っこ抜き、「ピンポン」と鳴らないようにインターホンの電池を外すのですね。
ラフが仕上がったのは朝7時半だった。2階のカーテンのすき間から覗き見ると、家の前には10数名ほどの方々が待機しておられた。「本当に申し訳ありません! ヒトでなしで」と、心の中で深々と頭を下げた。そして、すでに冷たくなっている父の隣に寝転びも2ショット写真を撮った。
ハルノさんは葬儀の手配を依頼し、仮眠を取ります。当該エッセイのタイトルを「片棒」とした意味が最後に語られます。ここまでの一連のドタバタ劇を振り返り、「落語のくだり」を想起するのですね。
次回も「ふか~い」お話を紹介しようと思います。
そこで思い出した。さっきのドタバタ劇。落語のあのくだりだった。
長男・次男が親父さんに、オレならこんなりっぱな葬式を出してみせると、それぞれ自慢をするが、ドケチな三男坊は、自分ひとりで簡素な葬式を出すと言う。「それじゃ~棺桶の片棒は、いったい誰が担ぐんだい?」とツッ込まれると、「馬鹿野郎! オレが担ぐ」と、親父さん。
「お後がよろしいようで」…って、私がしんがりでしたね。
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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