『生きるとは、自分の物語をつくること』

今回で、綴ってきた『大人の友情』の全12テーマ・46話の解説は、最後となりました。テーマは「境界を超える友情」です。前話は「島への手紙」をタイトルに、「友情」には、異なる文化、さらに人間と他の存在との境界をも超え得る“大いなる力”が存在する、と河合さんは〆ています。そして46話目を「戦友」と題し、河合さんは筆を執ります。

境界を超えての深い心の触れあいが成立する。とは言っても甘いことばかりは言っておられない。たとえば、人間同士でも相手が痴呆老人の場合などどうなるのか。自分の身内でも、まったく心が通じず苦しんでいる人は多いのではなかろうか。

小説やファンタージー、漫画、そしてアニメなど、創作されたものについて、多くの人はハッピーエンドを期待するでしょう。それは、困難な「現実」を前にして(もちろん幸せに包まれることもありますが)、創作であるフィクションに触れることで、一時のカタルシスを得ようとする「本能」の仕業なのかもしれませんね。『大人の友情』の最終のエッセイは、シビアな「現実」からスタートしました。
80歳くらいの夫が脳神経の病気のため、どこまで認識があるのか、言葉もほとんどないのでわからない…という情況にある知人の女性の話を、河合さんは紹介します。

そのように夫の介護のときに、寝ているのを抱き起こしながら、「しっかりせよと抱き起し」と、昔によく歌っていた「戦友」の歌詞を冗談半分で口ずさんだ。「戦友」の歌は年配の人なら知っている人が多いだろう。「ここはお国を何百里/離れて遠き満州の」ではじまる歌で、戦死した友を葬うものだ。友が銃弾に倒れたところで、「しっかりせよと抱き起し……」と続くのだが、夫人は夫を介護しながら何気なく、その続きを歌っていた。

さすがに、ミレニアル世代、そしてZ世代になると、この「戦友」は知らないと想像します。軍歌のジャンルに入るのかどうかは「?」ですが、「軍艦マーチ」など、勇ましいメロディーだらけの軍歌にあって、珍しく短調の哀切に満ちたメロディーです。この歌のみが、戦争を知らない現代の日本人にも受け継がれている(現在の50代以上世代は、耳にしたことがあると感じます)、「唯一の軍歌」なのかもしれませんね。

「折から起こる突貫に/友はようよう顔あげて/お国のためだ構わずに/遅れてくれるなと目に涙」
ここまできたとき、それまでまったく無表情だった夫の眼に滂沱として涙が溢れ出てきた。夫人は思わず夫を抱きしめたが、夫の涙は烈しい嗚咽に変り、二人は抱き合ったままで嗚咽した。二人の間に温かい何かが伝わった。

私たちが、河合さんの生前最後の言葉を感じることのできる著作に、『生きるとは、自分の物語をつくること(新潮文庫)』があります。作家の小川洋子さんが河合隼雄さんにインタビューした本です。この文庫はⅡ部構成(+小川さんによる「少し長すぎるあとがき」)で、Ⅰは、『週刊新潮』2006年1月26日号に一部掲載され(初出)、Ⅱは、『考える人(岩波書店)』2008年冬号に収録されています。
なお、「少し長すぎるあとがき」は、『生きるとは、自分の物語をつくること』に添えられた「書下ろし」です。

河合さんは、2006年8月に突然倒れ、意識不明のまま、ほぼ1年後の2007年7月に亡くなられました。ここで、小川洋子さんの「少し長すぎるあとがき」の冒頭を紹介しようと思います。

河合隼雄先生の追悼特集となってしまった2008年冬号の『考える人』が送られてきた時、私は思わず表紙に向かって、「先生」と声を掛けそうになりました。表紙の先生は、佐野洋子さんが追悼エッセイの中で“おひさまにあてられてポカポカふくらんだ座ブトンの様”と表現されている、正にそのままのお顔で微笑んでいます。リラックスしてネクタイをゆるめようとしているのか、右手を胸元にのばしながら、白い歯を見せて、眉を下げて、今にも笑い声が響いてきそうです。そこにあるのは、常に変わらず私に向けて下さった、そして一度でも先生と会った人ならば誰もがよく知っている、あの笑顔です。

結果的に、世の中に発表される「対談」の最後を、小川さんが行っています。次回からは、『生きるとは、自分の物語をつくること』を取り上げてみようと思います。
『大人の友情』シリーズ解説の〆として、掉尾を飾るエッセイ「戦友」の、最後のパラグラフを引用させていただきます。

科学技術が発展し、われわれは極めて快適で便利な生活をしているが、下手をすると、何でも自分の思いのままに支配し、操作できると錯覚し、その結果、大変な孤独や閉塞感などに悩まされることになる。
ぎすぎすした人間関係に潤いを与えてくれる友情ということが、現在において極めて重要になってくるのも当然である。そして、友と友を結ぶ存在としての「たましい」などということに、少しでも想いを致すことによって、現代人の生活はもっと豊かで、幸福なものとなるのではなかろうか。


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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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