さまざまな“うまいこと”が起こっていることに驚かされます!

少年をルートと名づけたのは単なる行き当たりばったりに過ぎません。数学をテーマにした小説だから、何か数学の記号から名前を取ろうと、参考書をパラパラとめくり、シグマ、ログ、サイン、コサイン、タンジェント等の中から音の響きだけで適当に選んだのです。

書き綴っていくうちにいつの間にか、“作家の手を離れてしまう小説”こそが、優れた小説なのではないか…との解釈を、小川洋子さんの語りを根拠に、繰り返しコメントしてきました。小川さんと河合隼雄さんの対談である『生きるとは、自分の物語を語ること』は、河合さんが『博士の愛した数式』を読み、感動したことがきっかけで生まれています。

河合さんが語る「ルート君」を巡るさまざまな解釈を聴く小川さんは、驚きをもって自分の書いた小説に対面します。

『博士の愛した数式』について先生がお話し下さった中で、書き手である自分自身が全く意図しなかった、さまざまな“うまいこと”が起こっているのに気づかされ、私はただもう驚くばかりでした。年齢も社会的立場もかけ離れた博士とルートが、実は根(ルーツ)を同じくする関係であり、二人の間に友情が育まれるのは当然の流れであったこと。最初隔てられていた義理の姉の母屋と、博士の離れに、最後、道(ルート)が開かれること。大人になったルートと死に近づいた博士がキャッチボールをする場面に、心理療法の現場にも通じる深い意味が隠されていたこと。こうしたすべては、河合先生に指摘されて初めて私の意識に上ったのでした。

筆者は、『生きるとは、自分の物語』で描かれるお二人の対話は「コーチングそのものである」と言ってきました。コーチングは、クライアントが気づいていない無意識の概念を、コーチの「傾聴」、「質問」、そして「フィードバック」によって、意識に浮上させていくことです。それが「気づき」なのですが、河合さんとの対話によって、それまで「感じていなかった」「考えていなかった」ことが、次々に像として結ばれていきます。小川さんは「驚かされる」という表現で語りますが、それは「感動」で言い表せると思います。

河合さんと小川さんの出会いは、この対談がきっかけです。河合さんの方は、文字通り最晩年の時であり、公職としての文化庁長官も務めていました。作家としての小川洋子さんの力量に惚れた河合さんの方が、むしろ望んでの対談であったことは、すでに触れています。

小川さんが、「聞きたいことをありのまま繰り出し、先生には自由に答えていただこう。話題が次々移り変わっていくその自然な流れに任せよう」、と臨んだ対談は、小川さんのいく分緊張した雰囲気が伝わってくるスタートです。ところが、河合さんが繰り出す、縦横無尽な「数学話」に、小川さんは、アッという間に「とりこ」にされてしまいます。
小川さんの「肩の荷」は早々に降ろされ、小川さんの“地”も垣間見える、小気味よいテンポの対話が展開されます。

コーチングセッションは、「楽しければよい」というものではありませんが、クライアントが、肩の荷をしっかり降ろし、胸襟を開き、自由に思ったこと、考えていることを、自然体で言葉にしている状態になったとき、コーチングは真に機能します。言い換えると、そうなっていないセッションは、クライアントに「気づき」が起こらない、ということなのです。

“本物の”プロコーチである河合さんによって、図らずも、小川さんが深く悩んでいた「書くことの意義」が鮮明になり、「気づき」を得ます。その感動(感謝)が素直に記されているのが、「二人のルート~少し長すぎるあとがき」なのですね。

小川さんは、人々の心を支える優れた文芸作品(児童文学も含む)に贈られる賞である「河合隼雄物語賞」の選考委員を務めています。「縁」によって、その人の人生に変化が訪れ、豊かな世界が広がっていく… コーチングの素晴らしさを、今改めて実感しています。

……途端に気分が楽になりました。世界中にあふれている物語を書き写すのが自分の役割だとすれば、私はもうちっぽけな自分に怯える必要はないのです。物語は既にそこにあるのですから。
このように先生との出会いは、私にとって大きな転機となりました。小説を書く作業が困難に満ちているのは変わりありませんが、根本的な部分で「自分」の比重が軽くなり、かえって自由な視野を得たような気がします。(中略)
私は先生によって、書き手としての自分の位置を発見できたのです。


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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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