今回のキーワードは、河合隼雄さんの『＜心理療法コレクションⅠ＞ユング心理学入門』の213ページから始まる、第六章「アニマ・アニムス」です。同じ元型でも「影（シャドウ）」と比べて「把握するのが困難」だと河合さんは言います。
ユングは、夢のなかに現れる異性像、すなわち、男性であれば女性像、女性の場合は男性像が、心理的に非常に大きい意味を持つことに気づき、それらの元型として、女性像の場合をアニマ（anima）、男性像の場合をアニムス（animus）と呼び、その意味を探求したのである。（中略）
影は個人的無意識との関連が深く、比較的理解しやすいものであるが、これから説明しようとするアニマ・アニムスは、無意識のより深い層にあって、把握することが困難なものである。筆者の今までの経験では（未だ非常に乏しいものであるが）、日本人にとっては西洋人よりもはるかに、このアニマ・アニムスを自我のなかに統合してゆくことが困難に感じられるようである。（213ページ）
人が社会の一員として生きていくためには、外的な環境に対して適切な態度をとることが求められます。つまり「適応」です。この外界への適応の姿が、直訳では仮面の「ペルソナ」であり、それに対して「アニマ・アニムス」は、元型として無意識内に存在する自分自身の内的な心的過程に対する様式です。
ペルソナとアニマ・アニムスは相補的であると河合さんは語ります。
ペルソナとアニマは相補的に働くものである。男性の場合であれば、そのペルソナは、いわゆる男らしいことが期待される。彼の外的態度は、力強く、論理的でなければならない。しかし彼の内的な態度は、これとまったく相補的であって、弱々しく、非論理的である。実際、われわれは非常に男性的な強い男が、内的には著しい弱さを持っていることを知ることがよくある。（218ページ）
河合さんはこの第六章の最後で、次のように語ります。245ページからです。
さて、今まで述べてきたように、アニマとアニムスは、人間関係のなかに入り込んできて、その関係をいっそう複雑なものにする。一組の男女の関係は、アニマ・アニムスを入れて、四人の関係であるといいたいくらいである。それに、男性がアニマと同一化すると、女々しい男として馬鹿にされようし、女性がアニムスにつかれると、女らしさを失ったものとして非難される。
しかし、一度この問題に気づいたものとしては、われわれは、ある程度の同一化の危険をおかしてさえも、自分の内部にあるアニマ・アニムスを統合することに努めなければならない。この苦しいまわり道を通じて、一人の女性あるいは男性として、そのなかに強さ、弱さを含みながら、より豊かな人間として自分の個性を生きてゆく道を見出すべきである。
この点において、もはやアニマもアニムスも、人間の男らしさ、女らしさをおびやかすものではなく、高い意味を持った機能としての働きをするものとなったということができる。
この本は、帯に「河合隼雄の心理療法の出発点がここにある！」とキャッチコピーが付されている、56年前に発表された河合さんのデビュー研究書です。
ユング心理学は、コーチングとの親和性を強く感じるところです。今回のキーワード解説は、この本で河合さんが解説された「アニマ・アニムス」を、さらに発展させた視点で把握してみたいと思います。
半世紀前はLGBTQの概念は存在していません。ユングは100年前に、「アニマ・アニムス」という、無意識の領域での異性性を見出しています。当時としては極めてチャレンジャブルな提起です。ただ、上記の河合さんのコメントにあるように、ユング心理学は「その統合を目指すべきだ」というものです。確かに誰しもが異性を内部に抱えている存在ですから、マジョリティとしては、理解できる提起です。
ただ「統合」という表現は、さまざま解釈できるものの、LGBTQも含めたすべての人々に対してオーソライズされる表現としては「ちょっと辛いなあ…」と、感じてしまいます。
河合さんは著作の序文で「ユングの言うとおりに従おうとする人はユング派ではない」と言ってくれていますので、「性自認も“ありのまま”であっていい」を、今回のキーワード解説の〆として再提起したいと考えています。
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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