
<承前>
「わぁ~お久しぶりですね」。坂本さんは80年代には、父がいようがいまいが、フラッとアポなしで、よく我が家を訪れたものだ。「あの~吉本さんのお仏壇をお参りしたいのですが」と言う。もちろん「どうぞ、どうぞ」だ。数日後、本当に彼は1人ポツネンと、大きな花束を抱えてやって来た。昔もこうやって、大きなアイビーの鉢を抱えてきてくれたことを思いだした。
前回は、「戦後思想界の巨人」とリスペクトされる吉本隆明さんの長女で、漫画家のハルノ宵子さん執筆の『隆明だもの』に収められている32のエッセイのなかの「科学の子」を取り上げています。父隆明さんの死後、3ヶ月ほどたった夏の始めに、坂本龍一さんから電話がかかってきたところまでを、描いてみました。引用はその続きです。
坂本龍一さんの来訪の姿を「1人ポツネン」とハルノさんは表現しています。坂本さんのスタイル(孤独を湛えている?)が伝わってくる文遣いです。読み進めると、死を前にした吉本さんの「想い」は、どのような言葉で紡がれていたのか、坂本さんは知りたくて、ハルノさんを訪ねたことが理解できます。
前回のコラムタイトルは…「原発をやめたら猿になる」、煽情的タイトルでミスリードする…としました。坂本龍一さんは、言わずと知れた「原発反対論者」ですが、尊敬してやまない吉本さんが晩年、原発を肯定している“ような”発言をしているので、その真意をハルノさんから聞き出したい、という目的でした。
坂本さんは、お仏壇に手を合わせると、開口一番「あのぅ…吉本さんは、原発についてどうおっしゃっていましたか?」と、ボソボソと尋ねる。(悪いけど)ちょっと吹き出しそうになった。本当に父親を亡くしたばかりの、心細そうな少年の顔をしていた。やっぱり気にしていたんだ。
マスコミにありがちなこととして、著名人にインタビューをし、それを記事として紹介する際、発言の部分のみを切り取って、(あえて)ミスリードすることを、前回取り上げています。坂本さんも、巻き込まれているのですね。
その頃坂本さんは、「たかが電気のために、なんで命を危険にさらすのか」という発言だけが切り取られ、1人歩きして、「電気を使った音楽で食ってるお前が言うな!」的な誹謗中傷に、さらされていたのだと思う。ヨ…弱い。
ハルノさんは、父の言葉を背景に坂本さんに次のように応えています。
「何も特別なことは、言っていないと思いますよ」。人が“火”を見出してしまったからには、決してそれ以前の生活に戻れない。その扱いについても、後始末についても、代替エネルギーにしろ新エネルギーにしろ、もう人類は永遠に“火”と向き合って、考え続けねばならない。「一貫して、その考えでしたから……」ってなことを話したと思う。それこそ猿でも分かる論理だ。そして父は、自分たちこそが“絶対善”それ以外の考えは、絶対に“悪”という理念から徒党を組み活動することを最も嫌ったが、それは別に言わなかった。
そして、「坂本さんは、また1人トボトボと帰っていった」のです。
ハルノさんの今回のエッセイは、さまざま考えさせられます。人は、尊敬する人物が自分と異なる立場を示したとき、戸惑います。その戸惑いは、不安を伴うとても個人的な揺れです。
『コーチング思考から始める「問いの力」』…弊社代表の五十嵐久が、「問い」について、徹底的に深掘りしています。
坂本龍一さんは、吉本隆明さんとハルノ宵子さんから「答え」ではない「問い」を投げかけられました。「トボトボ」という情景は、坂本さんは「答え」を見出せないでいる。どこまでも「深い問い」ですから。
筆者は『問いの力』を“哲学書”として受けとめました。
1924年5月27日に公開した…「哲学研究者」は大学で学ぶ人だけでなく、臨床の人達もいる…の中で、元大阪大学総長で哲学者の鷲田清一さんの言葉を紹介しています。引用して今回を終えることにしましょう。
わからないことのほうが大事なくらいでね。何というか、むしろわからないことが続いたら、今日の議論は面白かったなあと、答えが出ないときのほうが気持ちがいいということがありまして。……
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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