（小川）
言葉がない。
（河合）
ないんです。というのは、大人はごまかしてしゃべれる。ちょっと間が悪いなと思ったら、「いや、曇ってますな」って言えばいい。話を続けられるんです。
ところが中学生や高校生の子はそんなことは絶対言いたくないわけです。自分の腹の中にある、一番これが言いたいっていうことだけを言いたい。だけど、そのための言葉がない。自分が捕まってることと自分が使える言葉というのが離れすぎている。僕が「どうですか？」言うたら、「いえ」と言ったまま黙っている。「お父さんは？」「別に」って取り付く島がない。これは拒否しているのでもごまかしているのでもなく、言えないんです。
『生きるとは、自分の物語をつくること』の、8番目の見出しは「黙っていられるかどうか」です。その始まりの対話は、小川さんが河合さんに、実際のカウンセリングで「しゃべらない人っていうのはいないんですか。沈黙してしまう人。」と訊ね、河合さんは即答で「います」と答えています。その続きを、冒頭で引用してみました。
さて、自分が母親、父親であるとして、上記のシーンに遭遇した場合、自分の子どもに対して、どのように対応するだろうか…考えてみてください。
成長していく子どものことを「反抗期がなくてとても素直な子で…」と、嬉しそうに語る人がいます。その子がさらに成長し、大人になった際、どのような人物になっていくのか…筆者は少し心配しています。
頑なな態度で口をつぐむ子どもに対し、「いらだち」をおぼえてしまう“普通の人たち”は、勝手に「物語」を作ってしまうと河合さんは言います。
（小川）
質問する側が納得したくて、何か言ってしまう。
（河合）
そう、質問する側が勝手に物語を作ってしまうんです。下手な人ほどそうです。「三日前から学校行ってません」て言うと、「三日か。少しだね。頑張れば行けるね」とか。これから百年休むつもりかもわからないのにね（笑）。
（小川）
「もう少し頑張れば行ける」という、こっちの望む物語を言ってしまうわけですね。
コーチングのクライアントは、パフォーマンスの向上を願う大人が一般的です。ただし、大人とは「ごまかしてしゃべることができる人」でもあるのです。
河合さんの語りは「人間の本質」に迫ります。
（河合）
人間というのは物事を了解できると安定するんです。今この部屋にあるものみんな、どれも了解可能でしょう。だから安心して座っていられる。ところが僕が何か仕掛けをして、突然風船がパァと飛んで来たとする。それでも僕が平気で話していたら、皆さんもう気になって気になって仕方ないでしょう（笑）。了解不能のことというのは、人間を不安にするんです。そういう時下手な人ほど、自分が早く了解して安心したいんです。
（小川）
なるほど。
（河合）
相手を置き去りにして、了解するんです。それで「お父さんなんとかならんもんかねえ」とか勝手なことを言う。相談に来た子は、自分の世界と違うことが起こっているから、ますます無口になります。それで最後に、「まぁ、頑張りなさい」で終わり。
小川さんは、「患者さんの持っている深い井戸に、付き添って行く途中で降りてしまうという感じですね」と、受けとめます。この「黙っていられるか」の対話は、この後も4ページにわたって続くのですが、今回は、ここにとどめておくことにします。
人は、その人だけの物語を持っています。ですから「一心同体」にはなれない。私たちプロコーチは、そのことをしっかり認識し、そのうえで、その人の物語を大切に思う。
「黙っていられるかどうか」の最後で、河合さんは「変な物を付け加えないように、変に触らないように、ただそこにいるようにってやったら、それは彼はきちんと感じ取っているんです」と、言葉にします。私たちコーチもしっかりと肝に銘じたいと言葉です。
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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