（鷲田）
先生の前で言うのもなんですけど、臨床というのはこんなに時間がかかるものかと……。
（河合）
時間とエネルギーと、こんなにかかるものはないでしょうね。
（鷲田）
前に『「聴く」ことの力（ちくま学芸文庫）』に書きましたけど、聴くということが……。
（河合）
辛い。
（鷲田）
辛いというより、しゃべるよりはるかにエネルギーがいる。
（河合）
それはものすごいエネルギーが要ります。本格的に聴くというのはね。上の空で聴くのは簡単ですけどね。
鷲田さんは、臨床心理学者として「聴く」ことを究めた河合さんに、挑むように（いきなり）訊ねます。鷲田さん自身、「臨床哲学」の中心軸に「聴くこと」を据えていますから、河合さんが「聴く人」として「ほんもの」であるのかを、確かめるかのようです。
鷲田さんは、「上の空」という言葉が河合さんの口から出てきたので、「でもたまに上の空で聴くということも」と、返すと…
（河合）
そうですね。それも必要ですけど。その辺の表現は難しいんだけど、意識的に聴くのはよくないんですよ。一言一言に意識的に関わっていくのは、これはだめなんです。もっと、ぼやーっと聴かないと。はじめは一言一言に、「あ、この人は親子の問題を抱えている」とかそういうふうに考えるんだけど、それはだめなんです。
多く手がけられた対談のなかで、この『臨床とことば』は別格のような気がしています。河合さんは、思考する深みを体得されている鷲田さんには、安心して話されているのが感じられます。つまり「深み」と「深み」が化学反応を起こし、臨床家である河合さんの「聴く“哲学”」が、言語として顕れ、開示されていくのです。
一方、鷲田さんは、今までの対談を振り返ります。ゲラが出てきてそれを見た時…「あれ、この人こんなことしゃべってたのか、なんてドキッとすることありますけれども。かといって、受け止めてること自体が相手に反射して、相手の人のことばがせっかく漏れてきたのに、また意識過剰にしてしまう…」と、少し悩んでいるようです。
（河合）
そうなんです。受けてるというより、それは、掴むんですね。そうすると向こうは動けなくなってしまう。受けてるというのは、ふわーっと受けてるわけだから、向こうはどこへも動けるんだけど。どうしても最初のうちは一生懸命やるから、ことばを掴んでしまうわけです。
（鷲田）
ああ、そうですね。
（河合）
ふわーっと聴くというのは、修練がいる。スポーツと一緒で、相当の修練を経ないとできない。しかし修練すればできることだ、と言っているんですけどね。
ここで、見出しの「ことばを掴んでしまう」の意味が明かされました。
どの分野でもプロフェッショナルは存在します。「本当のプロは修練を重ねることで誕生する」、という河合さんのスタンスに「CBLコーチング情報局」は、共感しています。
「傾聴の真髄」が顕現する河合さんの言葉を引用し、今回の解説を終えることにします。
（河合）
……僕らのことばは、どっちが言うてるのかわからないようなことばになってる。あなたは学校行ってないんですね、じゃなくて、いやあ、学校行けへんなあ、みたいな。そうするとだんだんそういう世界に入ってくるから、それに付いて行けばいい。でも、そこまでがなかなかできないんです。外からものを言うのは楽でしょう。「学校行けないのはいつからですか」とかね。「もう二年ですか。長いですなあ。そろそろ行ったらどうですか」なんて、向こうが言うてないのに、こっちがどんどん言ってしまうわけですよ。
（鷲田）
そういうクライアントの世界の外に出ないということで、クライアントが逆に、自分の意志を幽閉しているところからポロッと出る機会を与えられるというわけですか。
（河合）
そうそう、一緒に言うわけだから、相手も出やすいわね。パッと出たら、また付いて行けばいい。そうやって世界は広がっていくわけですよ。
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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