河合隼雄さんのエッセイ集である『こころの処方箋』の43番目のタイトルは、「家族関係の仕事は大事業である」です。
河合さんは、あえて「家族関係」を“仕事”と捉え、かつ、それは「大事業」であると指摘します。このタイトルを見て「ユニークだな…」と多くの人が感じるであろう理由を、河合さん自ら次のように説明します。
職業や社会的なことに関する仕事は大変だが、家族のことなどは簡単にできるはずだという思い込みがある、ということである。筆者は、これに対して、家族のことは大変な仕事で、ひょっとすると、現在においては、職業や社会的な仕事を上回るほどの「大事業」ではないかとさえ思っている。
河合さんは、「現在において、どうして家族関係のことが難しくなったのだろうか」と、疑問を投げかけ、「それは、社会の変化があまりにも早く、それに多文化の影響を受けることも大きいので、伝統的でおきまりの方法によって事を運ぶことができないためである」と、一応の解答を用意しています。その上で、河合さんらしい分析が重ねられます。
社会のなかでは、人間はある程度は自分を抑えてでも、人間関係を維持しようとしたり、それなりの「礼儀」や利害関係もあるので、何とかうまく動いている。ところが、家庭においては、人間はもっと自分の気持ちに対して率直である。それこそが家庭のいいところと言えるだろう。となると、子どもたちも親もそれぞれが自分の考えや感情を、なまのままで出してくることになる。
「なまのままで…」というのは、なまなましくて実感が持てますね。その前に河合さんは、「もっと自分の気持ちに対して率直」になることができるのが「家庭のいいところ」と述べています。私たちはコーチングの素晴らしさを語ります。「自分の気持ちに素直になれる環境」を生み出すのがコーチングの役割です。究極の目的といってもよいかもしれません。つまり「家庭のいいところ」は、あえてコーチングを意識しなくても、その環境が生じてくる条件が備わっていると、河合さんは言いたいのかもしれません。
ただし、何事も「いいところ」には「そうでないところ」も存在します。ユングはそのことを「相補性」と捉え、河合さんもさまざまなシーンで「相補性」を語ります。
「なまのまま」が出てくれば、当然その反作用は起こります。それが「職場の人間関係」のなかで生じてしまうと、その関係は「破綻」するかもしれません。ところが「家族の関係」では「維持」され、さらに「豊か」になる可能性が高まるのです。だからこそ、「家族関係の仕事は大事業」でもあるのですね。
当該エッセイの最後のパラグラフを紹介することで、今回の解説の〆とさせていただきます。
先に「心の新鉱脈を掘り当てよう」ということを書いたが、家庭のことは家庭のこととして、覚悟を決めて「新しい心の鉱脈を掘り当てる」と、職場のことも家庭のことも両方が楽しくできるようになってくる。言うは易く行うは難しであるが、このことを行うには、まず、家族関係のことが「大事業」であるという覚悟がいるのである。はっきりとした覚悟があるのとないのとでは、姿勢が異なってくるし、繰り返しになるが、正面から取り組んで事に当たるとき、人間のエネルギーは不思議に新しく開発されるのである。
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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