埋めることができなかった“一片”を見出すことができた人は「本当に幸せ」だと思う

小関直さんが死んだ。
……と言ったところで、ごく一部の編集者の方以外は、「誰じゃ? それ」だろう。でも、ここで私が書き留めておかなければ、ただ市井の人が1人、この世から消えた…で、終わってしまうから(誰だってそうなんだけど)、何の痕跡も残さず永遠に忘れ去られてしまうから、せめてその名を文字に残しておこう。

「戦後思想界の巨人」とリスペクトされる吉本隆明さんの長女で、漫画家のハルノ宵子さん執筆の『隆明だもの』に収録されている32のエッセイを一つずつ取り上げ、丁寧にコーチングを語ってきました。前回は29番目の形而上の形見でしたので、残りは3つです。引用は、30番目の「一片の追悼」の書き出しです。

小関さんは「春秋社」の編集者で、1970年代の前半に吉本隆明さんの担当となり、『最後の親鸞』(1976年)以降『アフリカ的段階について』(1998年)までを手掛けています。「父の『試行』の校正を最後まで、やってくれた人だ」と、ハルノさんは語ります。そして…「いつも間にやら(な~んでか)父と小関さんは、親しくなっていた。岩淵さん(伝説の名編集者)のように“盟友”でなく、親戚のように、昔からの友人のようにだ。その内家族ぐるみで、付き合うようになった」と、吉本家にとっても特別の存在であったことを。
当該エッセイのタイトルを「一片の追悼」とした理由が明かされます。

さて、ここで邪推する人がいるといけないので、断じて言うが、小関さんは決して父に、おもねって取り入った訳ではない。むしろそこからは、最も遠い人だ。父の方もそういった人の作為には、最も敏感な人だ。ただ2人とも、仕事上の付き合いにおいても、実の家族や親戚においても、埋めることができなかった“一片”をお互いの中に見出したかもしれない。そんな気がする。

私は数冊の本を出版しています。本が世に出されるまでには、編集者とのやりとりが、密度濃く頻繁に続きます。そうして「完成版」に至るのですが、必ずと言ってよいほど「編集者の存在の大きさ」が実感されます。「とても一人では創り上げることはできなかった」と、感謝の思いに包まれるのです。

吉本隆明さんの著作は、多くの出版社が出がけています。ただし、「春秋社」の小関さんだけは“特別”だったのですね。

父の担当編集者だった人は、少なからず父から議論…とまではいかずとも、「イヤ! それは違いますよ」などと、異論を唱えられた経験があっただろう。しかし父と小関さんは、1度たりともぶつかったことが無かった。いつも2人でニコニコしながら、小声でボソボソと語らっていた。小関妻と私は、「や~ね~あの2人、女子高生みたいね。不気味だわね~」などと陰口をたたいていた(ちなみに小関妻と私も、出会った時から生涯無二の“珍友”となって今に至る)。なので小関夫の情報源は、女同士の“井戸端”で語る夫のグチな訳だが、その中から見えてきたことも多い。

ハルノさんは、父と小関さんが似ていることをさまざま語っています。その結論は…

まず疑いから入る。柔軟な共感能力が欠如している。広義的にはあるのだろうが、そこに至るまでが面倒くさすぎるのだ。イヤ…そここそが、父の思考のすべてを支えているのだとは分かるが、フツーの人にはついていけない。日常的にこれにさらされる家族は、たまったもんじゃない。
そんな2人が、お互の間には“肯定”しか存在しない…って感じで語らっているのだから、人間って分からない。
これを言うと、嫉妬の炎に狂う“吉本主義者”もいらっしゃるかと思うが、もう2人とも死んじゃったんだからいいだろう。

小関さんは、60歳の定年でスパッと「春秋社」をやめます。

正直私は、会社をやめた当初から「ヤバイな」と思っていた。小関さんは“何か”を放棄した…と、感じた。その時点で、“編集人”として父と関われる“限界”と、意識下で自分で自分を見切ったのだと思う。

「一片の追悼」の最後でハルノさんは次のように「追悼の言葉」を綴ります。引用して今回の「コーチング大百科」を終えることにします。

私は小関さんの死は、定年の時何かを放棄してから20余りをかけた、緩慢な自殺だと思っている。父への殉死だったのかもしれない。あの世でまた、父とお茶を飲みお菓子を食べながら、女子高生トークをしている姿を思い浮かべると、(悪いけど)笑っちゃうのだ。


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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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