
(中沢)
『土神ときつね(狐の漢字を充てている版もあります)』を見ても、この土神の嫉妬の激しさは、これはやっぱり自分の中にそういうものを抱えている人でないと、ここまでの表現はできない。自分の頭の上で跳びはねている狐に対してメラメラと燃え上がる土神の、あの嫉妬心っていうものが根底にあるんだと思います。……
河合隼雄さんと中沢新一さんの『ブッダの夢』の第2章にある2つ目の見出しは「『毒もみのすきな署長さん』の悪」です。「毒もみ」という法律で禁止されている行為を、堂々と行い、最後は死刑を受けても、「いやあ楽しかった」と言葉にする「悪漢」を描いた作品です。
警察署長という「悪事」を懲らしめる立場の人間が「悪事」を行なっている(しかも「これ以上楽しいことはない」という思いで…)、という設定です。河合さんは「宮沢賢治の修羅」が描かれている、と言葉にします。
この「『毒もみのすきな署長さん』の悪」の対話の中で、『土神ときつね』も話題に上ります。引用は、そのストーリーを中沢さんが紹介しているところです。「嫉妬のすさまじさ」がテーマ(最後にその対象である狐を殺してしまいますから)なのですが、「これはやっぱり自分の中にそういうものを抱えている人でないと、ここまでの表現はできない」と、中沢さんが言葉にするように、河合さんと共通する視点が伝わってきますね。
「嫉妬」が沸き起こってしまう…その背景にはさまざまな要因が考えられます。この『土神ときつね』はとてもシンプルで「恋愛感情」なのですね。これに囚われてしまうと「もうどうしようもない…」と、制御不能になってしまう感情を「土神」に造型しています。
賢治は動物を擬人化して描くのがパターンであり、「土神」も擬人化しているのですが、とにかく「神」なのです。その「神」がナイーブな「狐」に嫉妬して殺してしまうのです。凄い小説(童話?)です。
殺す直前の「土神」の心理を、賢治は次のように描きます。それまで土神は「おだやか心地」でした。ところが、狐が樺の木(女性に擬人化された狐と土神の恋愛対象…樺の木は知的でスマートな狐の方を好ましく感じていた)に、オシャレ(スノッブ?)な言葉をかけると…突然、怒りが沸騰するのです。読者としては「脈絡のなさ」を感じてしまいます。
土神はまるでそこら中のまっ白な火になって燃えているように思いました。青く光っていたそらさえ俄かにガランと真っ暗な穴になってその底では赤い焔がどうどう音を立てて燃えると思ったのです。
狐は自分の住処である円い穴に逃げ込もうとするのですが、土神につかまります。
土神はうしろからぱっと飛びかかっていました。と思うと狐はもう土神にからだをねじられて口を尖らして少し笑ったようになったままぐにゃりと土神の手の上に首を垂れていたのです。土神はいきなり狐を地べたに投げつけてぐちゃぐちゃ四五へん踏みつけました。
このあと、8行ほど文字が連なり『土神ときつね』は終わります。土神は狐の屍骸のレーンコートの内ポケットに手を入れると、その中には、もがやの穂(ねこじゃらし)が二本だけ入っているのを見つけます。その瞬間、ウソにウソを重ね、樺の木を、口説いていた狐の実体(虚飾にまみれた姿)を、はじめて知ることになるのです。
最後の3行を引用します。
土神はさっきからあいていた口をそのまままるで途方もない声で泣きだしました。
その涙は雨のように狐に降り狐はいよいよ首をぐんにゃりとしてうすら笑ったようになって死んでいたのです。
もしこの小説が「童話」の体裁で書かれていなかったら…と仮定してみました。ひょっとして、「成熟した大人が読む純文学」として、文学賞を獲得するかもしれない、と勝手に想像しています。テーマは「恋愛の狂気」です。
ただ、多くの評論はこの『土神ときつね』を、道徳的な視点でまとめているのですね。「ちょっと違うんじゃないかな…」という想いがきざします。
筆者は、河合さんと中沢さんは『ブッダの夢』を通じて、「リフレーミングの大切さ」を語っていると受けとめています。(株)コーチビジネス研究所は、「エグゼクティブコーチング」に力点を置いて展開しています。さまざまの修羅場をくぐってきた経営者とのセッションです。その経営者に「気づき(awareness)」が訪れるシーンを共につくっていくのが、エグゼクティブコーチングの本質です。
宮沢賢治の作品を「予定調和」とは異なる視点で、深く感じてみると、そのシーンがイメージできるような気がしています。
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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