河合隼雄さんは『＜心理療法コレクションⅣ＞心理療法序説』の中で、元型の一つである「老賢者」について、実際的なアプローチで臨んでいます。
ユング心理学は、実際の心理療法の場で、クライエントが、本来対等であるカウンセラーに対して、「老賢者」だと錯覚してしまうことを指摘し、それが「長老」と結びついてしまうことの危険性を説きます。
「自己」はしばしば「老賢者」のイメージとして顕現するが、それが実際の「長老」と結びついてくるときに問題が生じるというのである。つまり「長老」のもつネガティブな面、「神学的一神論の、かたくなな固執、宗教的寛容性のなさ、そして優越性に対する確信」が強く出てきたとしても、他の者はそれに反抗できないのである。（148ページ）
河合さんは、「老賢者=長老」は西欧に特徴的なことではなく、「中空構造」の日本でも形を変えて現れることを指摘します。
その中心の「空」あるいは「無」は、一神教の神と似たはたらきをすることもあるのである。つまり、日本においても「長老」には絶対に従わなければならなくなってくる。そして、もっと問題を難しくすることは、その長老は別に明確な原理や原則をもっているわけではないのである。従って、何を争点にして戦えばよいのかもわからないまま、ともかく服従しなくてはならない、ということさえ生じてくる。
このような長老のイメージが心理療法家に対して投影されることがある。そのことをわれわれはよく意識しておく必要がある。たとえば、治療者が「解釈」を告げたり、忠告を与えたりすると、クライエントがそれに無批判に従ってしまうことがある。自分の考えや生き方と照らし合わせて考えるのではなく、ただ、それに従ってしまうので、後で問題が生じてくるのであるが、治療者はそれに気づかず、凄くものわかりのいいクライエントだと思ったりする。（149ページ）
河合さんの言葉にある「心理療法家」「治療者」を「コーチングのコーチ」と置き換えて読むと、上記はコーチングセッションが機能しない事例の一断面そのものです。
コーチングが実際に機能しているセッションは、そこに「コーチングの3原則」が見出せます。ところが案外なことに、コーチングでもクライアントがコーチを「先生」と捉え、一方のコーチは「私は先生ではなくクライアントであるあなたと対等な存在です」と口にしつつ、「解釈による指示的言質」を投げかけ、それをクライアントが無批判に受けとめてしまっていることもあるのです。
元型とは、本人が自覚できていない無意識の世界で生じますから、コーチングを学び資格を得たコーチが、自分には知見があるとの「自信」を「魔術的な老賢者の力」と錯覚してしまうと、まさに事例のような現象が起こってしまいます。
河合さんは、本書で早々に次のことを言葉にしています。
一番困るのは、「クライエントの力で治ったのです」などと言いながら、治療者は自分が治したのだと考え、自我肥大を起こしてしまうことです。（21ページ）
私たちコーチも無意識の底から受けとめるべき箴言として、河合さんのこのメッセージを、今回のキーワード解説の〆の言葉とすることにします。
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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