『＜心理療法コレクションⅢ＞生と死の接点』で、老人をテーマにファンタジーについて語ってきた河合隼雄さんは、「これまでに述べたのは男の老人の話であった。最後には女の老人の話を取りあげることにしたい」と、209ページから『トムは真夜中の庭で』の紹介を始めます。このファンタジーは、フィリパ・ピアスというイギリスの作家が書いた児童文学の代表作です。
物語の主人公であるトムは、弟がはしかにかかったことで、隔離の必要から、伯父と伯母の住むアパートに預けられます。心細いトムは両親のもとに早く帰りたいと思っていたのですが、不思議なことが起こります。家主である年老いた女性のバーソロミューさんの古時計が、13時に時を打ちます。階下に降りていったトムが、裏側の扉をあけてみると、そこにはまったく予想もしなかった素晴らしい庭園が広がっていたのです。
翌朝になってトムは、いろいろ調べてみるが、別に庭園など全然なかったのである。しかし、夜になって大時計が13時を打ち、トムがそこにゆくと、庭園はちゃんとあったし、そればかりかそこには人が住んでおり、その子どもたちのなかにハティという子とだけ、トムは言葉を交わすようになる。
不思議なことに、トムが毎晩そこにゆくたびにハティはぐんぐん成長し、若い女性になってゆく。そして、その世界ではハティだけがトムの姿を見、話しをすることが出来るのである。トムはこの不思議な庭と、ハティに心惹かれて、両親のところに帰りたくないと思い始める。（210ページ）
ところでトムが何歳なのか気になって、チャットGPTに質問したところ、「トムの年齢については、作中では明確に言及されていませんが、いくつかの手がかりから推測することができます」と、文字がカタカタと続き、さまざまな根拠が列挙された後、最終的に10歳～13歳という回答で締めくくられました。
さてこの不思議な冒険は、トムがいよいよ自宅に帰宅しなければならない日になって、その謎が解けます。家主のバーソロミューおばあさんこそハティその人だったのですね。
つまり、バーソロミューさんは年老いた体でただ一人の生活をする間に、眠っている間は自分の子どもだった頃を夢に見、トムがやってきてからは、その夢をますます鮮明に見るようになって、トムはその夢に「はいってしまった」のである。このことが明らかになって、バーソロミューさんとトムは一度で親しくなり、何やかやと「夢」のなかの体験を話し合った。しかし、トムはもうその日に帰らねばならなかったので、再会を約してお別れすることになった。トムは階段を降りて帰りかけたが、衝動的に向き直ると、バーソロミューさんのところへ走り寄っていった。そのときの様子を見ていた、トムの伯母は後で次のようにそれを夫のアランに伝えている。
トムが駆けあがっていくとね、ふたりはしっかりと抱き合ったの。まるで、もう何年も前からの友だちみたいで、けさ知り合ったばかりだなんて、とても思えなかったわ。それからねえ、アラン、もっと不思議なことがあるのよ。あなたはきっとばかばかしいといって笑うでしょうけど……もちろん、あのバーソロミュー夫人は、トムより心もち大きいか大きくないかっていうぐらいに小さくちぢんでしまったおばあさんですけどね……トムは、相手がまるで小さな女の子みたいに、両腕をおばあさんの背なかにまわして抱きしめていたのよ。
ここで、この感動的な物語は終わっているが、ラストシーンは、老人の心の中に幼い心から若者の心まですべて内包されていることを示している。（211ページ）
河合さんはこのファンタジーを、世の中で形成されてしまっている「年齢・年代のイメージ」を溶かす物語として、さらに、甘えん坊のトムが両親から自立への大切な一歩を踏み出す「成長譚」として捉えます。
バーソロミューおばあさんは、トムに何かをしてやったわけではない、しかし、ベッドに横たわって、夢を見ることによって、トムの成長にとって極めて大切な節目に立ち会い、それを助ける人となったのである。（213ページ）
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河合さんの視点を踏まえると、「バーソロミューさんは何かやったわけではない」にもかかわらず、トムは成長したのです。ここでバーソロミューさんはコーチングのコーチ、そしてトムはそのクライアント、と想定してみてはいかがでしょうか。
この『トムは真夜中の庭で』は、コーチングを感動的に描く一つの物語として読み込むことが出来そうですね。
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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