キーワードは「臨機応変」

(鷲田)
私、実は心理学に恨みがあるんです。学生時代に実験心理学か何かの人に材料にされまして。ちょっと被験者になれと言われて、知覚能力のテストをさせられましてね。自分が意識できないぐらい素早く切り替わる画面を見せられて、「何があった?」って聞かれるんです。ヌード写真しか目に入らなかったから「ヌード写真がありました」と言ったら、「やっぱり」と言われたんです。「やっぱりって、どういう意味やろな」と思いましたよ。自分では見たと意識しないでも見えるものがあるということを実験されたんだけど、「やっぱり」ということばに傷つきましてね(笑)。

前回に引き続き、『臨床とことば』第3章の5番目の見出し「言語化できない“臨床の知”」を取り上げます。
1970年頃のお話です。当時、心理学を科学たらしめようとする「実験心理学」がもてはやされていた時代ですから、「なるほどな」と、腑に落ちました。
CBLコーチング情報局は、カール・ロジャーズをコーチングの母と捉えます。1973年にロジャーズが発表した論文「援助専門職の新しい挑戦課題」の中に、次のような記述があります。

心理学は、多数のシロネズミを使った何千という実験や、実験室、コンピュータ、電子機器の設備、高度の統計処理等を駆使した大規模な研究にもかかわらず、私の判断では、意味のある科学としては後退し続けている。私たちは、ロバート・オッペンハイマー(Robert Oppenheimer)がアメリカ心理学会の講演で述べた警告に注意を払うことをすっかり忘れているのである。彼は、心理学が陥りやすい最悪の事態は、「時代おくれで跡形さえない物理学をモデルとすることである」と指摘した。(『ロジャーズ選集(下)/誠信書房』より引用) 

鷲田さんは「それ以来、私は心理学というのがどうも嫌で……」と言葉にします。その一方で…

最近になってアフォーダンスの研究なんかが出てきてから、「あれ、またすごく面白いことやってるな」と思いはじめました。

と、米国の心理学者ジェームズ・J・ギブソンによる「アフォーダンス」について言及しています。アフォーダンスとは、「動物(有機体)に対する刺激という従来の知覚心理学の概念とは異なり、環境に実在する動物(有機体)がその生活する環境を探索することによって獲得することができる意味/価値(Wikipediaより引用)」のことです。
元々は「生態心理学」の研究テーマでしたが、現在は広く一般に用いられるキーワードとなっています。鷲田さんは、このアフォーダンスをヒントにさまざまな事例を語ります。

(鷲田)
それでリハビリの先生は、不安になっている子どもに、触るか触らないかというかたちで触ると、ぶるっと震えるから、逆にその子を触るときにはギュッと思いきり握るか、それから、撫でるときには、毛を逆立てないように毛並みに沿って撫でるという、そういう触れ方をしないとだめなんだと言っておられまして。同じ触るか触らないかというのが、一方で本当の意味での触ることでもあり…桃を持つときもそうですし…、逆に子どもの場合は、触るか触らないかという触り方がいちばん相手を脅かしてしまうということがあるんですね。
(河合)
そうです。
(鷲田)
どっちも距離なのに、どうしてこう対照的な効果が出るのか。こっちの物を触りに行くときに、あるいは看護するときに相手に密着しないで、でも「もう知らん」というふうにもしないで、常にある距離をもってジッと見てるということが大事だと、そういうプラスというか、大事な距離と。……

ここで交わされる対話の見出しは「言語化できない“臨床の知”」です。「哲学とは言語化である」というのが、鷲田さん、そして河合さんの共有認識です。「臨床哲学」を創始した鷲田さんは、この後も「臨床の言語化」を何とか実現しようと、懸命に言葉を尽くします。
この見出しの最後あたりの対話を引用して、今回のコーチング解説を終えることにしましょう。キーワードは「臨機応変」です。「コーチングのプロフェッショナルとは?」に迫る至言と受けとめました。

(河合)
そのときそのとき、違うでしょう?
(鷲田)
なるほどね。臨機応変で。
(河合)
ものすごく臨機応変ですね。僕はよく大学院生に言うんです。「目標にするのは大打者だと。大打者は三割ちょっと打ったらすごいことだ。だから、皆、当たると思うな」と。
(鷲田)
四割打ったら、もう天才ですね。
(河合)
四割打ったら天才やと。ところが、面白いことに草野球では五割の人がいるんですよね。だから、草カウンセラーは「五割治した、四割治した」と喜んでいるけれども、プロはそうはいかない。勝負は三割一分か二割八分かにあるんです。三割一分の給料と二割八分の給料は全然違うでしょう。「たった三分の違いやないか」と言うけれども、それはすごい差なんですよ。プロになるほどそうなんですね。


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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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