（河合）
……僕はこの頃よう言っているんですけど、「僕はアースされているから大丈夫」なんです。
（小川）
通り道になっているっていうことですか。
（河合）
うん、それで、最後は地球にお任せしてるってね（笑）。
（小川）
それは、「死んでもままよ」の世界ですね（笑）。
（河合）
そうそう。アースされていれば、いろんな話を聴いても大丈夫なんです。それからね、もう、すぐ忘れます。
『生きるとは、自分の物語をつくること』の16番目の見出しは「忘れていたことが出て来る」です。
小川さんの、「秘密を守らなくてはならないという先生のお仕事は、すごく苦しくて大変でいらっしゃるのでしょうね」、という問いかけからはじまります。河合さんの「煙に巻く」というか、禅問答のようなやりとりが続きます（笑）
この後で、湯川秀樹博士に呼ばれ、夢について語ったエピソードを河合さんは語ります。湯川秀樹博士は、1947年に日本人初のノーベル賞を受賞しています。時代的には、京都大学の教授であり、河合さんも京都大学卒ですから、そのご縁もあったのかもしれませんね。
（河合）
……「僕はねぇ、こんな夢を見たんだよ」って、自分の見た夢の話をされたんです。聴いて、僕はもう何も言えない気持になりました。わかりますからね、湯川先生の苦しみというか、大変さみたいなものがね。ところがこの話のことはね、一週間したらまるきり忘れてます。
（小川）
それも能力ですね。忘れられるんですね。
ここは、実はものすごくシリアスな話です。ユング派心理学は「夢」をについて、徹底的に研究しています。それは「夢分析」として結実します。プロである河合さんは、湯川先生の「夢」がいかに苦悩に満ちていたか、そのことが理解できたのです。感応した河合さんは、忘れることで自分を保っている…
タイトルの「忘れていたことが出て来る」の意味は、次の対話で明かされます。
（河合）
ええ。覚えていたら言いたくなるでしょ。でも忘れてるんやから言えない。見事に忘れてるんです。面白い夢を聴いた、というぐらいしか覚えていない。
だから来た人が前に話されたことは完全に忘れていると思っている。ところがしゃべっているうちに、三年前にその人から聴いた話が心に浮かんでくる。「先生よう覚えておられますね」て喜ばれるんですが、覚えているじゃないんです。出て来るんです。
（小川）
どこかに仕舞ってあったんですね。
（河合）
そう、どこかに仕舞ってあって、その場にふさわしいものが出て来るんです。
（小川）
「ものすごくうまいこと」が起こるんですね。
（河合）
そう。それはもう僕の力じゃない。一度忘れたものが出て来るんやからね。
（小川）
あぁー、引出しとは地球ですからね。
この『生きることは、自分の物語をつくること』は、小川洋子さんという聴き手の存在を得て、河合さんの生前最後（公開された）の言葉が、豊かに広がっていきます。まさに「上善如水」です。この対話集は、最後の見出しである、「傍らにいること」を残すだけとなりました。
河合さんは「地球と一体となり、つながることができたんだなぁ…」と筆者は感じています。
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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