（中沢）
…… やっぱり今、日本で語られている両界曼荼羅の考え方というのは、空海の独創と考えていいと思います。空海はその考え方を土着的な山岳信仰の伝統と、もう一つ、若い時から深く親しんでいた華厳の思想との影響から着想しています。華厳のある部分を発達させたのが、真言密教ということになります。
（河合）
科学も、両界曼荼羅的科学を考えると面白い。
河合隼雄さんと中沢新一さんの対談集『仏教が好き！』の最終章（6回目の対談）＜大日如来の吐息…科学について＞の6番目の見出し＜両界曼荼羅的科学があるはず＞を取り上げる2回目です。
空海が登場する前に、「量子力学」を中沢さんは紐解いています。二分法のニュートン力学の世界に、全体で動いていく「マトリックス（量子力学の根底理論）」が出現したことを。
河合さんはすかさず…「胎蔵界曼荼羅」、英語にしたら「マトリックス」…と応えます。量子論と胎蔵界曼荼羅が結びついた瞬間でした。
お二人の対話は、「胎蔵界曼荼羅→母性」「金剛界曼荼羅→父性」というメタファーに展開していきます。河合さんのユーモアが冴えわたります（笑）。
（中沢）
…… 父のほうは単線的ロジックを強調しますから、「マトリックス」的な思考法を、抑圧しちゃう傾向があります。母というのは、最初から「マトリックス」ですからはっきりと境界の定まったような主体性がありません。その半面とても複雑で頑強なものをつくれます。
（河合）
だから男は強そうに見えても、一つやられた終わりです。
（中沢）
「マトリックス」は、そういうわけにはいかないでしょう。
（河合）
その両方が大事と、空海さんが言っていたわけですね。
筆者は、コーチングの本質は「異質の調和」であることを語り続けています。究極の不幸である「戦争」は、二分法が極端な形で表出した現象です。
「言葉はいかに使えばよいのか？」…とても難しいテーマですね。違いはそもそも存在する。「じゃあどうあるべきなのか？」…「共存」という言葉が浮かびます。ただその前に、「世界は“相補性”で成り立っている」ということをしっかり認識する必要があるのではないでしょうか。
“相補性”について、この「コーチング大百科」で書き続けています。その象徴である「父性」と「母性」は、相補性そのものであることを。
お二人の空海論は「空海は未来的であった」、とそのゴールが見えてきました。
（中沢）
空海のその発想は大変に未来的なところがあります。
（河合）
すごいですね。それを科学理論のなかで考えてみると面白い。しかし人間の「心」を考え出すと、どうしてもそうなってくる。
コーチングは未来志向です。そのコーチングを「科学」として捉える向きは、あまりないように感じます。この現代においても「科学」は二分法的世界観に覆われている。ところが、「量子力学は時空を超越しているのかもしれない…」という研究の流れも生まれています。「硬さ一辺倒の科学観」も、変化の兆しが見えてきました。それが「リベラルアーツ」の視点です。本来の「科学」は、もっとやわらかいものかもしれない。
今回の最後に、当該見出しの〆ともいえる中沢さんの言葉を引用し、次回は、章のタイトルでもある次の見出し＜大日如来の吐息＞に移りたいと思います。
（中沢）
…… ですから、金剛界の考え方は必要です。しかし金剛界だけで人間は成り立ちえない。人間は哺乳類として必ず母から生まれますから、胎蔵界もなくちゃなりません。この胎蔵界と金剛界が結び合ったときに初めて、人間の社会は真っ当な働きをする。
空海は要するに、レヴィ=ストロースなんかの言う「野生の思考」と科学的思考を、仏教哲学を媒介にして一つに結び合わせてしまった人です。河合先生や僕などの理想の人ですよね。
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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