「いじめられ役をつくるとその集団はうまくいく」のをやめるには…

(鷲田)
ところが、皆がいい塩梅で共同生活をできるには、一人犠牲者をつくったらいいというか、あるいは、一人ブァルネラブル(傷つきやすい、攻撃されやすい)な存在をつくるというか。家族でも何でもだれか一人いじめられ役というか、かわいそうな人をつくると、かえってその集団がすごくうまくいくということがあって、生贄の山羊のような残酷な装置を共同生活の中に取り入れてきた。

臨床とことば』の第2章「聴くことの重さ」は59ページにわたって対話が繰り広げられるのですが、7つの見出しのうち、4つ目の「カギは“調和”の感覚」は10ページが割かれています。
同書を引用しながらの「コーチング解説」は、「1つの見出しに1つの解説を」という方針を立てて進めていました。ただ前回、「書き足りないので続きを…」とコメントしつつ、その2つ前の「ことばを掴んでしまう」にシフトしてしまったので、今回改めて「カギは“調和”の感覚」の続編を綴ってみようと思います。  

冒頭の引用は、河合さんが「教条的な教養とでも言うか、それにしたがって生きているのではなくて、自分の持っている調和感覚を鍛えて生きていかないと。」と、上手くまとめてくれたな…と感じられるコメントの後に発せられた鷲田さんの言葉です。
ブァルネラブルという難しい英語も飛び出して(思わず?)いますから、「哲学問答」に河合さんに引き込もうとしているかのように感じました。
河合さんも、やや刺激されたのか、持論の「善と悪の相補性」を強調するトーンで、言葉が繰り出されます。

(河合)
それをやめるのには、各人が自分の悪を認めないといかん。そうしないと、だれか悪が一人になってよくないんです。自分たちは善だ。一人悪い奴がいる。これは単純なグループダイナミクスで、これからは各人が自分の悪を自覚しないと。その悪をどこまで許容するのかというときに、僕のさっきから言っている美的感覚ですか、それ以上はおれの美意識が許さない。だけどこんなのは、西洋で言っても通らんのです。まずプリンシプルが確立しないと。
(鷲田)
その美というのはどういうふうに考えたらいいんですか。たとえば日本語で美しいと言ったときに、単なる造形的な美しさいうよりも、きれいということばがありますね。それに近くて、要するに勝負ごとでもきれいに負けるほうが汚く勝つよりいいというような。日本のきれいとか美しさというのは、案外、道徳に近いような。

「美意識」というワードは、「論理」の対極にある表現です。つまり「感性」ですね。鷲田さんは哲学者として「言語化」を河合さんに求めます。ただ、鷲田さんが開陳した「考え」は、「言語化は困難」を補完するヒントとして河合さんはキャッチしたようです。

(河合)
僕も日本の倫理基準は、やっぱり美的判断じゃないかと言ってるの。でもそれは、ものすごく言語化しにくいんですよね。言語化できないということは、西洋人には通じないということだから。たとえば、噓をついてはいけません、というのはまずはっきりしていますよね。でも嘘をついていない人はいないでしょう。どうなるのかというときに、どの程度ついていいのかというのは、ものすごく言語化しにくいですね。けど、お互いには割にわかるわけでしょう。あいつはこのくらいやねんか、いうときに、不文律的合意がある。それを各人が洗練させていくというか、各人が努力するというか。そういうことが必要じゃないかと思います。

この『臨床とことば』を読み終えた時、ものすごく“疲れた”ことを思い出しています。
河合さんは日本における(いえ、世界的にも評価される)臨床心理学者のフロントランナーであり、オーソリティです。一方の鷲田さんも、現代日本の哲学者としての第一人者です。このお二人が、ガチで(真剣に)対話を重ねると、魂が揺さぶられるというか、手に汗握る究極のスペクタクル(言葉が弾み過ぎました…スーパーセッションに言い換えます)となる(なってしまう)ことが実感され、筆者のアタマは髄からしびれてしまったのです。

そして一呼吸おいて、鎌田實さんの解説を読むと… 全幅に共感できました。「鎌田さんも同じ感覚を体験している!」という感動です。再掲します。

臨床心理学と臨床哲学のそれぞれの雄ががっぷり四つに組んで、「臨床とことば」について横綱相撲を見せる。立ち合いは激しい。西の正横綱の鷲田清一が、ぐっと東の正横綱・河合隼雄を土俵際に追い込んだかと思うと、河合隼雄はすっと身をかわして、土俵伝いをうまく回り込み、再び土俵の中央に戻る。なんとも見ごたえのある取り組みである。そうだ、そうなんだ、と納得し、感動しながら読んでいる僕は臨床医である。……

プロコーチには冷静さが求められます。次回は、クールダウンして「コーチング」を語ってまいりますので。


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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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