「望みを持ってずっと傍らにいる」が、河合隼雄さんの生前最後のメッセージ!

(河合)
「行けなかった」と言った時「でも行けるよ」って言うたら、行けなかった悲しみを僕は受けとめていないことになる。ごまかそうとしている。……

生きるとは、自分の物語をつくること』に、全部で17ほど付された「見出し」の最後を今回取り上げることになりました。タイトルは「傍らにいること」です。この対話を終えた2か月後に河合隼雄さんは、突然倒れ、意識不明のまま1年後の2027年7月に永眠されます。ですから、この本は、巨人である河合さんの、公開された最後の言葉が集められています。

6ページの対話である「傍らにいること」が最後となったのは、おそらく、編集者の(この本では完全な黒子ですから、ときどき挟まれているだろう声は、まったく登場しません)、「そろそろお時間ですので…」という、言葉に促されたのだと想像します。というのも、3ページ目の終わりから4ページの始めにかけて、河合さんが小川さんに、次のような言葉をかけているからです。

(河合)
続きはまた今度にしましょうか。僕はいくつか読ましてもらった小川さんの作品で、ちょっと聞きたいことがあるんです。「ブラフマンの埋葬」というタイトルは面白いですね。ブラフマンとアートマンというのご存じですか、小川さん。
(小川)
いえ、もうそんな難しいことは全然考えずに、辞書をパーッと引いて決めたんです。
(河合)
ブラフマンというのは、ユングが大好きな言葉ですよ。

冒頭は、1ページ目の後半あたりからの引用です。学校に行けない子ども(小学生もしくは中学生か)の事例です。続く河合さんの言葉は、「傍らにいること」の意味が、深く深く、私たち一人ひとりの心のなかに沁み込んできます。筆者は、今、そしてこの先の人生の拠り処となる、「珠玉の言葉」として感受しました。

(河合)
……「そうか」と言って、一緒に苦しんでいるんやけど、望みは失っていない。望みを失わずにピッタリ傍におれたら、もう完璧なんです。だけどそれがどんなに難しいか。
(小川)
日常の中で、何気なく人を励ましてるつもりでも全然励ましたことにはなってなくて、むしろ中途半端に放り出しているってことがあるんでしょうね。
(河合)
それはつまり、切っているということです。切る時は、励ましの言葉で切ると一番カッコええわけね。「頑張れよ」っていうのは、つまり「さよなら」ということです(笑)。
(小川)
「私はここで失敬します」ということですね。
(河合)
そういうことです。だから僕らは「頑張りや」は言わんと別れるんですね。「あなたが持ってきた荷物は、私も持っていますよ」っていう態度で別れる。
こちらが「アカンかな」て思い込んでしまったら、「あ、ほんまにアカンのだな」て相手は不安になるでしょ。そういう時下手な人は、「そうか。やっぱり僕ではアカンな」となる。相談に来た人はますます不安になります。

この後、小川さんが「家(うち)の主人に『もう駄目だ、書けない』ってつい愚痴を言うと……」と、どこにもありそうな夫婦の関係を面白おかしく開示しています。河合さんは上手にフォローします(笑)

さて、『生きるとは、自分の物語をつくること』について、あともう少し、文字を綴ることが出来そうです。もう筆者のコメントは不要だと自覚していますので、最後の最後、ジョークを交えた河合さんの「物語」が語られる、1ページ半をそのまま引用して、終えることにします。

(河合)
「望みがない時にどうするか」という有名な話。僕は「望みを持ってずっと傍にいる」ことが大事だってさっき言いましたが、「望みがない時はどうするんですか」って聞かれたんです。すると僕の目の前におった人が「のぞみのない時はひかりです」。みたらね、新幹線の売場なんです(笑)。あんまり感激したから、「あっ、のぞみの次はひかりだ」って言うたらね、向こうはびっくりして、「こだまが帰って来た」って(笑)。僕はこういう話するのが大好きなんですよ。毎日やってます。
(小川)
物の名前っていうのも、うまくついていますよね。
(河合)
いや、うまくついていますよ。アインシュタインの、光は全てのものの中で一番速い言うのは間違いです。光より速いものがあったんです。
(小川)
のぞみ。
(河合)
太陽から、ここまで光が届くのに何分かかるか知ってる? 8分。ところが僕が太陽に「お願いします」言うたらパッと一瞬にして届く。
(小川)
一瞬ですね(笑)。
(河合)
だからのぞみはひかりより速いんです(笑)。こだまとやまびこの差は知ってますか。東京駅で「おーい」って言うて、東北の方から「おーい」って返ってくるのが「やまびこ」、関西の方から返って来るのを「こだま」って言うの。
(小川)
方向が違うんですね。
(河合)
東京駅で実験すればわかります(笑)。

(2006年6月15日、文化庁長官室にて)

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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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