河合隼雄さんのエッセイ集である『こころの処方箋』の38番目のタイトルは、「心の支えがたましいの重荷になる」です。
最初の1ページで、それまでは仕事こそ「私の生き甲斐」と言っていた、仕事をするのが面白くてたまらなかった中年の男性が、念願かなって課長に昇進し、皆から祝福されたにもかかわらず、抑うつ状態になってしまった事例を紹介します。
2ページに入って、今回のコラムのテーマが「たましい」であることを、河合さんは次のように記述します。
ここに描いたのは、この頃に多い中年期の抑うつ症のひとつの例であるが、なぜこんなことが起こるのだろう。今までの、この人を支えてきた仕事が一転して大変な重荷となるのである。このことに対する説明として、今までこの人の心を支えてきたものが、この人のたましいにとって、重荷になっている、と考えてみた。イメージで言えば、心の下にたましいというのが存在しているのである。心の支えになっているものは、たましいの上にのっかっているので、それが大きくなってくるほど、たましいの方は重荷に感じる、というわけである。
前回のコラムで、河合さんの臨床心理“学者”としての相貌が伺える文章となっている、と記しています。
このエッセイ集を取り上げるまでは、河合さんが生涯にわたって著されてきた膨大な「学術的業績」を、6冊のアンソロジーとして集約し、発刊された『＜心理療法＞コレクションⅠ～Ⅵ』の解説を続けてきました。数えてみると、全部で92話ほどになっています。
最終話は、「偽科学はどのような背景によって生み出されていくのだろうか？」です。そこでは、「ユング派心理学を説明する際、同時性・シンクロニシティは、必ず登場する“キーワード”です」という言葉を添えて、ユングが提起した「専門用語」を説明しています。
その後は、洒脱な文体のエッセイを55ほど集めた『こころの処方箋』を取り上げ、解説を始めています。これも数えてみると、今回で33話となっていました。
この本のコンセプトをたてるにあたって、河合さんの考えたのでしょう。「学術書ではないユーモア集として発表しよう！」という志が感じられます（笑）
今回は、CBLコーチング情報局・「コーチング大百科」の直近100話を振り返る内容となりました。というのも、前回の37番目、そしてこの38番目が、それまでとちょっと違って、少々お堅い「学術書」と、この「ユーモア集」の橋渡しをしているように感じられたからです。
少々前置きが長くなりましたね。
当該38番目のコラムテーマは「たましい」です。試しに、「CBLコーチング情報局」のサイト内検索の欄に、たましいと入力すると、『＜心理療法＞コレクションⅠ～Ⅵ』の引用が、４話のキーワード解説でピックアップされました。時系列は以下の通りです。
人間というものは「二律背反」があるから面白い！（7月13日）
人が内的に徐々に変化し、その頂点では何が生じるのか？（8月29日）
夏目漱石が「心」ではなく「こころ」と平仮名にしたのにならって…（11月8日）
「自己実現」に伴う危険と苦しみをよく知っておくことが必要！（11月14日）
いずれも、ユング派心理学の重要キーワードを解説しています。
一方でこのコラム集には、ユングはほとんど登場しません。ただし、背後に「濃厚なユング」を感じる内容となっています。河合さんは、難解なユングの考えを、「こころ」「たましい」という大和言葉に置き換えて、わかりやすく説明する姿勢を貫いています。
最後のパラグラフを紹介して、今回の解説を終えることにします。
たましいなどとわけのわからないことを言って、と怒られそうだが、一般に抑うつ症の人は、生真面目に「わけのわかる」解決策をいろいろと考えて、どれもうまくゆかず余計に苦しんでいる人が多いのである。そんなときに、筋道たてて考えるのをやめ、今まで、自分の心を支えてきてくれた基盤が、実はたましいという存在の上にのしかかって重荷になっている。それじゃ、たましいの方にもうひとつ強い支えをつくらなくては、……などというイメージの世界に遊んでみることの方が、はるかに早く解決を生み出すと思われる。
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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