75歳以上を「高齢者」として再定義すると日本にも変化が訪れる?

<心理療法コレクションⅢ>生と死の接点』の188ページからの見出しは「老人と現代」です。高齢化が顕著に進む日本は高齢者(65歳以上)の割合が不可逆的に増加する状況にあります。世代間対立はどの時代でも存在しましたが、老人に対する視線が一昔とは異なってきたようにも感じられます。そのあたりの変化について、河合隼雄さんは次のように語ります。

「老人の知恵」という言葉が昔からあって、そのため老人は家庭にあっても、地域全体のなかでも尊ばれていたものである。しかし、これも社会の変動が激しくない時代のことであり、伝統社会においてのみ言えることではないだろうか。古くからある慣習やしきたりを老人がよく知っていても、それは伝統をそのまま守る社会においてのみ「知恵」といてはたらくのではなかろうか。社会がどんどん発展し、能率よく回転していくことを目標とするとき、老人の古いものに対する固着は、「無駄」であり「障害」になるのではないか、というのが現代一般の老人に対する見方であるといえるだろう。(189ページ)

言われてみると「そうかもしれない…」と感じられますね。その背景として「古いものに固着する」に加えて、「老人は衰えていく」という視点も根強く存在しているのかもしれません。河合さんは、臨床心理学者としての視点で、「無駄の必要性」と「創造性」の観点から、上記に対して、リフレーミングを試みます。

創造ということは、常識的に「無駄」と思われていることから生まれてくるものである。このように考えると、単純な発想によって現代のもつ弱点に対して、それをカバーし、反省をうながす知恵をそなえたものとして見ることができるのである。それは単に伝統の保持者などということではなく、邪魔とか無駄とか考えられる、その存在のあり様のなかに深い知恵が内包されているのである。(190ページ)

最後の一文は哲学的ですね。
ところで、法律で高齢者を65歳以上と定めたのは40年前(1982年)であり、最近耳にする75歳からの後期高齢者もそのとき定義されました。「言葉」によってレッテルは貼られる傾向がありますから、65歳になると、世間は(そして本人も)、「老人」として見てしまいます。ただし、平均寿命は当時と比べて格段に伸びています。

河合さんの提起も踏まえて、「75歳より高齢者」と再定義すれば、社会の見方も変化するのではないでしょうか。30%に迫ろうとする65歳以上のボリュームゾーンにおいて、「健康で聡明な“高齢者”」は膨大に存在します。人口減少社会における「元気な働き手」として、社会にますますコミットメントしてもらう「新たな価値観の醸成」が可能になります。

ただし、その「新たな価値観」にはもう一つ大きな転換が求められます。「まだまだ元気」だからといって、部課長、そして社長といった地位に居座るのではなく、若者世代へのポスト移管をどんどん進める制度改革も求められます。本人の能力とは別に、外形的な「肩書」によって関係性が出来上がってしまう、ということも現実です。河合さんの言う「老人の知恵」は、そうやって発揮されていくのではないでしょうか。
巨人の肩の上」に立って、「深い知恵」を身につけた高齢者という呼称ではない「円熟の人」が若者のサポート役を買って出る… 新たなコーチングの世界が広がっていくのがイメージできそうです。


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