心配や苦しみから抜け出すと、のたうち廻ったことも「楽しみ」となっていく

河合隼雄さんのエッセイ集である『こころの処方箋』の49番目のタイトルは、「心配も苦しみも楽しみのうち」です。

河合さんは、1ページ目の終わりから2ページ目にかけて、タイトルの意味するところを次のように概説します。

「心配してもはじまらないから、心配するな」などという人もある。しかし、「心配するな」といわれてやめられるようなものではないのだ。とすると、心配しながらも、どこかでそれを楽しむようにしてはどうだろう。心配の種はつきることがないのだ。沢山ある心配のなかで、特にその心配が自分に与えられることになった。それも大きく考えると、人生の楽しみのうちではなかろうか。

さて、この言葉だけで、「そうだね… そういう気持ちで臨めば心配ごとに囚われることなく、苦しみも克服できるかもしれない」、と思える人は、おそらく河合さんのこのエッセイを読まなくても、楽天的に生きていける人かもしれません。人の性格は千差万別ですから「心配性の人」にとっては、「心配すること」をやめられるようなものではない、のが実情でしょう。

河合さんは臨床心理学者であり、さまざまな「心配」「苦しみ」を抱えている人と対話を重ねています。その中の一つの事例をこのエッセイで取り上げています。
ある家庭の一年浪人の受験生が、同居している祖母に対して「心配かけない」ように、「次は大丈夫だから」ということにして、こまごまとしたことは言わないように振舞います。というのも、前年の失敗の際、祖母があまりにも気落ちしてしまったので、「これ以上心配かけたくない」と言う気持が強くなった故の態度でした。

ところが、その頃から祖母が少しボケはじめたようなのである。自分はいじわるをされて、あまり十分に食べさせて貰っていないとか、自分を一人にして放っておいて、家族一同でレストランに御馳走を食べに行ったとか、親類の者に言うようになった。もちろん、そんなことは事実ではないのだが、父親の姉妹などが心配してやってきたりして、事情がわかってきたのである。

「あらあら…」ですね。「心配を減らそうとする気遣い」が、逆の結果を招いてしまったようです。家族会議が開かれます。祖母がこのようにボケてしまい、「ひがみ」とも感じられる言葉を発するようになった原因を推察します。

皆でいろいろ考えてひとつ考えついたことは、祖母から孫の受験に関する「心配」を取り上げてしまったので、急に疎外感を感じたのではないかということであった。そこで、試しに、思い切って孫の受験のことについていろいろと話をしてみた。すると、ボケているはずの祖母が何やかやと意見を言い、それはそれでやっぱりうるさい点もあったし、祖母なりに心配するので、それに対応してゆかねばならぬということは生じたものの、祖母の「ボケ」は収まってしまったのである。

河合さんはこのような場合、小説家のように「フィクション」を語る人ではないので、実例です。この話はたまたま「家族」という人間関係ですが、友人関係、会社のチームや組織などで、当人が「気遣い」のつもりで、ある人に対し、それまでの態度を変えて接するようになると、その人からすれば理由が告げられていないので「不安」が高まり、疎外感を覚えてしまうことはありそうです。
「心配ごと」も「苦しみ」も、一人で抱え込むのではなく、対話が共有されることで、楽しみに転じていく可能性が高まりそうですね。この家族のように他者との関係が修復されることで、「癒される」のが一般的だと思われますが、河合さんは、自問自答による「癒し」を、最後のパラグラフで「処方箋」として提示してくれました。

心配や苦しみも楽しみのうちなどと言っても、その渦中にあるときは、心配に打ちのめされたり、苦しみから逃れようとのたうち廻ったりで、楽しみどころではないかもしれない。しかし、そのような状況から抜け出した後で、思い直してみると、「やっぱり楽しみのうちだったかな」と思えたりしてくる。このような経験を重ねてゆくと、心配や苦しみに対して他の人よりは落ち着いて受けいれられるようになるだろう。


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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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