人は「現実を物語化して」記憶する、という作業をやっている…

今回から、『生きるとは、自分の物語をつくること』の第Ⅱ部に移ります。第Ⅰ部の「魂のあるところ」は、2005年12月15日に文化庁長官室で行われています。そして、この第Ⅱ部は、半年後の2006年6月15日に、同じく文化庁長官室で実施されました。その、最初の見出しは「自分の物語の発見」です。冒頭は、小説家の小川さんの「なぜ私は小説を書くのか…」という、少し長い独白です。スタートの一部を引用します。

(小川)
私は小説を20年近く書いているのですが、ときどきインタビュアーに「なぜ小説を書くんですか」と無邪気に質問されて、たじろいてしまうことがあります。私にはそんなに特殊な仕事をしているという気持ちはないんですね。
人は、生きていくうえで難しい現実をどうやって受け入れていくかということに直面した時に、それをありのままの形では到底受け入れがたいので、自分の心の形に合うように、その人なりに現実を物語化して記憶していくという作業を、必ずやっていると思うんです。小説で、一人の人間を表現しようとするとき、作家は、その人がそれまで積み重ねてきた記憶を、言葉の形、お話の形で取り出して、再確認するために書いているという気がします。

小川さんの語りはしばらく続きます。そして、「河合先生は人々の物語作りの手助けをする専門家として、物語と向き合っていらっしゃいます…」と、「物語」をテーマに、河合さんとの語り合いを提案することで、本のタイトルを冠した第Ⅱ部の「生きるとは、自分の物語をつくること」がはじまります。

(河合)
おっしゃったことは、私の考えていることとすごく一致しています。私は、「物語」ということをとても大事にしています。来られた人が自分の物語を発見し、自分の物語を生きていけるような「場」を提供している、という気持ちがものすごく強いです。
だからこそ、私のところに来られるような人たちは小説を読んで救われたり、ヒントを得たりするんでしょう。苦しみを経ずに出てきた作品というのは、その人たちには、魅力がないんじゃないかと思いますね。

CBLコーチング情報局では、同書にふれた最初の解説で、「少し長すぎるあとがき」に込められた小川洋子さんの追悼の言葉を引用しています。村上春樹さんも、『職業として小説家』の最後で、小川さんと同じように、河合さんへの追悼のオマージュを捧げています。ここで、その一部を再掲させていただきます。

言葉にはあえて出さないけれど、犬と犬とが匂いでわかりあうみたいに。もちろんこれは僕だけの勝手な思い込みかもしれません。しかしそれに近い何かの共感があったはずだと、僕は今も感じています。僕がそのような深い共感を抱くことができた相手は、それまで河合先生以外には一人もいなかったし、実を言えば今でも一人もいません。「物語」という言葉を使うとき、僕がそこで意味することを、本当に言わんとするところを、そのまま正確なかたちで、総体として受け止めてくれた人は、河合先生以外にはいなかった。そういう気がします。

第Ⅱ部のはじまりである「自分の物語の発見」は、カウンセリングの臨床が、いかに過酷で厳しい現場なのか… 河合さんは語ります。作家のつくる「物語」との違いが真に迫ってくるのですね。
パフォーマンスの向上を目指すクライアントに伴走していくコーチングと、カウンセリングとでは、セッション内容が異なるのが通常です。但し、クライアントの「物語」に深くコミットメントしていくことについては、コーチングのプロコーチも同様です。以下を引用し、次回の解説につなげていこうと思います。

(小川)
患者の方の深い悩みに付き添って、どこまでもどこまでも下へ降りて行くと、河合先生は以前おっしゃっておられました。小説家もやはり、小説を書いている時は、どこか見えない暗い世界にずうっと降りて行くという感覚があるんです。
(河合)
その感じは、もうほとんど一緒じゃないかと思いますよ。ただ小説家はずっと降りて行って、その結果つかんだものを言葉にする。だけど僕らは、人が話すのをただ聴いていて、その人自身が何かを作るのを待っているだけです。自分では何も作らない。
小説家と私の仕事で一番違うのは、「現実の危険を伴う」というところですね。作品の中なら父親を殺すこともできるけど、現実に患者さんが父親を殺すと、大変です。
(小川)
殺したいという気持ちがあっても実際には殺さないために、物語が必要なわけですね。
(河合)
そうです。そしてその物語をわかる人もいないといけない。その辺がものすごく難しい。よくいうことですが、「若きウェルテル」は死ぬけれど、ゲーテは長生きする。


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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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