疑ったり、怒ったりせずに、ともかく無条件に話に乗ろう…

前回まで、55のエッセイを集めた『こころの処方箋』について、一つずつ取り上げ、コーチングに敷衍してきましたが、それが終了したところで、今回から、同じく河合隼雄さんの著作である『大人の友情(朝日文庫)』を取り上げてみようと思います。この本については、1月19日にアップした、傷から血を流しつつも「裏切り」の意味をだんだんと知っていくと… のなかで、すこし触れています。
なお、同書は2005年2月に、単行本として朝日新聞社から刊行されていますが、CBLコーチング情報局では、河合さんがお亡くなりになった後(2008年2月)に出版された、文庫本を引用することにします。ちなみに、2022年4月には第6刷と、長期にわたって版が重ねられています。

1992年の『こころの処方箋』は、一人の臨床心理学者という存在(京都大学教授)から、日本文化を内外に発信していく役割を担われることになる、そのタイミングで書かれたエッセイ集です。
それに対して『大人の友情』は、河合さんがお亡くなりになる直前の著作であり、最晩年の滋味あふれる芳醇なエッセイ集という趣の作品となっています。

コーチングの本質はリベラルアーツである」というのが、CBLコーチング情報局のスタンスです。もちろんテクニカルな技法を学ぶことも大切ですが、それを超えて、クライアントの人生に寄り添い、共に歩もうとする私たちにとって、河合さんの言葉一つひとつが、心に沁み入ってくるのを、この本から感じるとることができます。

構成は、大きなタイトルを12ほど挙げ、それぞれ3~4のエッセイを配した全46のエッセイ集です。前置きはこれくらいにして、最初のタイトル「友だちが欲しい」の一話目である「友だちができない」を紹介することにしましょう。
2ページ目の半ばで、多くの人が「友だち」に「ほんとうの」とわざわざ形容詞をつけることに、河合さんは着目します。「友人にも、ほんものとにせものがあるならば、ほんものとにせものとの見分けは、どこでしているのか、ということにもなってくる。こうなるとあんがい難しい」とコメントし、そこから河合さんの世界が展開されていきます。

こんなとき、私はかつて、ユング派の分析家、アドルフ・グッゲンビュールの「友情」についての講義を聞いたときのことを思い出す。そのとき、彼は若いときに自分の祖父に「友情」について尋ねてみたら、祖父は、友人とは、「夜中の十二時に、自動車のトランクに死体をいれて持ってきて、どうしようかと言ったとき、黙って話に乗ってくれる人だ」と答えた、というエピソードを披露してくれた。

河合さんは、200ページからの「あとがき」で、「文章は読みやすいと思うし、手軽に読めるので電車のなかなどで読んでいただくといいが、軽いなかに急に重いことや苦しいことが突出してくるのを感じられることだろう」とコメントしています。
まさに最初の2ページ目で、いきなり登場した印象ですね。河合さんは、そのようなときは、「ときどき読むのをやめて一思案して下さると有難い。私とは異なるいろいろな考えが沸き起こってくることであろう」と言葉にします。
私は「もしもその人が、コーチングを行なっている私のクライアントだったら…」と、想像してみました。クライアントと私が、河合さんの言葉に触発され、それぞれの異なる人生を語る姿がイメージされます。

さて、河合さんは、この後で何を語るのでしょうか。「コーチングの本質」を深く考えてみる至言であることが実感されます。

ここで、「かくまってくれる」と言わず「話に乗ってくれる」と言っているところが注目すべきところだ。しかし、わざわざ「黙って」とつけ足しているのは、疑ったり、怒ったりせずに、ともかく無条件に話に乗ろう、ということだ。つまり、深い信頼関係で結ばれているし、話に乗って何とかしよう、という姿勢も感じられる。
確かにこれはすばらしい、「究極の友人」ということにもなるだろう。現実にはそこまではいかないにしても、もう少し、広い意味で、お互いにある程度考えはわかっているし、共通の興味や関心事があり、会って話しあうのは楽しい、という程度のものもあるだろう。このような広い意味、狭い意味の両方を心に留めながら考えてゆくことにしよう。


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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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