先ほど、“うまいこと”が起こる、という言葉が出てきましたが、これは著作の中でも、今回の対談でも先生が使われている表現です。
今回は、カウンセリングの過程で、クライアントが問題を解決していく重要な要素に、「“偶然”ということが存在するのを認めざるを得ない」、と河合隼雄さんが言葉にする意味を、コーチングの視点で紐解いてみようと思います。
冒頭の引用は、『生きるとは、自分の物語をつくること』の「二人のルート～少し長すぎるあとがき」にある、小川洋子さんの言葉です。
カウンセリングは、精神的な問題を抱えているクライアントが中心になりますから、ゴールとなる「治癒」に至る過程は、大変な苦しみを伴います。その点、パフォーマンスの向上を目的に対話を重ねていくコーチングとは、違っていることが理解できますね。
カウンセリングでは、「治癒」そのものを拒絶する（そこに至る過程が辛すぎるので）クライアントも存在します。このことから、「カウンセリングとは、治療者とクライアントが二人で苦闘を続けていくこと」、という言い方もされます。
それにもかかわらず、河合さんは「患者さん（クライアント）が治っていく過程で、さまざまな“偶然が起こる”」、と指摘するのですね。
これは作家としても興味深い問題なのですが、まず何より、治療者として専門の技術を持つ先生が、治癒の過程に「偶然」というあいまいで本来コントロール不能なはずの現象を、潔く持ち込んでいる点に驚かされます。ともすると早合点な人は、心理療法家の技量にお構いなく、治る時には偶然治るのか、と思い込んでしまうかもしれません。
小川さんは、もちろんこの「思い込んでしまう」ことを否定し、次のように自問自答します。
つまり、心理療法家の能力が最大限に発揮されればされるほど、表面上は、まるでクライアントが自ら偶然に治ったかのように見える、ということなのでしょうか。（中略）
私は先生がなさる心理療法の現場を見たことはありません。けれど先生の言葉の数々から察するに、心理療法家は現場では常に脇役、患者と患者が起こす偶然に対する奉仕者なのではないかと思います。そのイメージは私にとって、作家が物語の前でひざまずく姿と重なって見えます。
「奉仕者」という言葉が導き出されました。小川さんのこの言葉によって、筆者は「サーバントリーダーシップ」を想起しています。
コーチングは、「答えはクライアントが持っている」という原則からすべてが始まります。ただし、その「答え」に気づいていないクライアントは多い。
専門家であるプロコーチは、対話によって、その「答え」の在所（ありか）をクライアント自らが探し出すことをサポートします。さらに対話を重ねることで、「答え」は輪郭化され、明確になった「答え」を、クライアントがしっかりと携え、ゴールに向かって着実に歩を進めていけるよう、プロコーチは伴走します。
ここに、コーチングとカウンセリングの共通点が見出されるのです。
「人生は物語みたいだなあ」と語る、小川さんの言葉を引用して、今回の「コーチング解説」を終えることにします。
自分が画策したり、小細工を施したりしたわけでもないのに、何かの働きによって物事が上手い具合に収まってゆく。あるいは、無関係だったはずの出来事が知らず知らずのうちに結びつき、想像を超えた発展を見せる。人生は物語みたいだなあ、とふと思う。その瞬間、私は現実の本質に最も接近している実感を持ちます。現実と物語が反発するのではなく、境界線をなくして一つに溶け合った時こそ、大事な真実が見えてくるのです。
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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