夏目漱石が「心」ではなく「こころ」と平仮名にしたのにならって…

河合隼雄さんの『<心理療法コレクションⅠ>ユング心理学入門』の第6章は、「アニマ・アニムス」を詳述する内容です。前回まで第4章の「心象と象徴」、そして、第5章の「夢分析」を取り上げています。「アニマ・アニムス」も過去の解説で取り上げているのですが、読み返してみると、そのなかで「心」について、河合さんがユングの捉え方と、それを踏まえての見解を述べているところがあります。

本書のめざすところは、あくまでも自分の内界としての心の探索を行うもので、「心の現象学」とでも呼べるものといえる。そして、この章に至るまで、その現象の記述を続けてきたが、今ここで、「心」の意味について、ユングの考えを詳しく述べることにする。(214ページ)

河合さんは、このあと「ユングは、われわれが漠然と心と呼んでいるものを、もう少し明確に定義づける必要を感じ、psycheという言葉とsoul(Seel)という言葉を概念的に区別して用いるようになった」、と筆を進めます。

心理学の英語表記はサイコロジー(psychology)で、psycheに関する学問のことです。psycheは日本語で「精神」と訳されるのが一般的です。シンプルな「心」と訳してもいいようにも感じますが、訓読みの「こころ」は大和ことばであり、psycheとは異なる印象を覚えます。そしてsoulは「魂」です。ユングがこの2つを含めて「心」を捉えたのは、何となく理解できますね。

psycheとは、意識的なものも無意識的なものも含めて、すべての心的過程の全体をさしているものであり、これを一応「心」という日本語におきかえて、今まで用いてきた。これに対して、今はsoulが問題になるが、この意味はこのあとに述べることにして、これを「こころ」と訳すことにする。(215ページ)

母国語である日本語を私たちは日常自然体で使っています。この日本語は、漢字(音読み、訓読み…熟語になるとさらに複数の発音も存在)、ひらがな、カタカナ、というマルチな文字でカバーされる世界的にまれな言語体系です。
中国、英語圏、アラビア語圏… 圧倒的な国々は単一文字で生活しています。言語(文字)は思考を形成するベースとなるので、日本文化のユニークさ(あいまいさ?)は、この言語体系によって形成されたとも解釈できそうですね。

河合さんは、留学を通じて、英語とドイツ語をマスターされています。ユング心理学を日本に紹介するにあたって、微妙なニュアンスの違いも踏まえて、外国語と日本語を徹底的に相対化させていったことが、このあたりの記述を読んでいくと、ひしひしと伝わってきます。
そして河合さんは、夏目漱石の有名な「こころ」を援用します。次回も、河合さんの「こころ」について、解説を進めることにします。

ここに、「たましい」という言葉を用いなかったのは、これを宗教上の概念として霊や魂などと混同されることをおそれるためである。そして、適当な訳語がないので、漱石が小説の題名にわざわざ平仮名を用いたのにならって、「こころ」と書いて、前述の「心」(psyche)と区別したわけである。(215ページ)


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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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