（鷲田）
河合先生は、谷川俊太郎さんとのご対談の中で「感心する才能」ということをおっしゃっておられますね。つまり、たとえば治療の一環として絵を描いてもらったときとか、あるいはお話を聞かれたときに、「これは何を意味するのか」などと聞くのはアホで、「ワーッすごい」というふうに感心するということがとても大事で、それはだれにでもできるということではないとおっしゃっています。
あれはすごく印象に残りましてね。この間、先生とご一緒したある会合の席で『幸福と偶然』というお題でお話をさせていただいたときには、先生の顔がチラチラ気になって、どんなふうに聞いてくださっているんだろうと思って。
（河合）
感心して聞いとったんですよ。
（鷲田）
あっそうですか。……
前回まで、『臨床とことば』の第2章「聴くことの重さ」について、コーチングの解説を13話ほど重ねています。今回よりお二人の対談は、第3章の「臨床における“距離”」に場面が変わります。 同書は全4章の構成で、第1章は「臨床心理学と臨床哲学」をタイトルに、河合さんによる同書が誕生した経緯が語られ、そして第4章は「“語り”と“声”」のタイトルを付して、臨床哲学者である鷲田さんの思索がモノローグで綴られます。
さて、第3章は8つの見出しが挟まれているのですが、最初の見出しは「哲学学とハウツー時代からの離脱」です。冒頭は、その書き出しを引用しました。しばらく、お二人の楽しいやりとりが続きます。
そして、鷲田さんの『幸福と偶然』の講演を聴いた河合さんは、一つの問題提起をします。
（河合）
あの話の中で、幸福のことを考えたり本に書く哲学者が、20世紀になって急にいなくなったと言われたでしょう？ あれ、すごく面白かったですね。それから最近の傾向として、幸福論というものが急にハウツー物になっているんですね。僕はこれがすごく気になっているんです。われわれはどう考えるべきか。とても大事なことだと思います。
（鷲田）
なるほど。
（河合）
それで僕が思ったのは、学生時代のことなんです。僕の学生時代は哲学全盛時代ですよ。学生というのは哲学書を読んでいないとかっこ悪くてしようがなかったんです。
河合さんは、西田幾多郎の『善の研究』を引き合いに出し、この本が話題になったら「ウンと言わないと学生扱いしてもらえなかった」と言葉にします。ただ、「ほとんどの学生はあまり読んでいないんですけど…」と、ウイットをまぶせます。
（河合）
……皆すごい哲学の話をしてるのに、僕は読んでもわからないし、困ったな困ったなと思ったのをよく覚えている。そのうちに皆、偉そうに言うほど本当は読んでないこととか、読んでいる割には何もわかってないことが、だんだんわかってきて安心したんですけどね。
ここを読んだ時、「無知の知」を認識したソクラテスと河合さんがダブって見えました（笑）
「CBLコーチング情報局」は、コーチングをハウツーではない、と捉えます。ただのスキルではなく、思想であり哲学であると考えます。河合さんは、ご自身の学生時代を振り返り、そして現代に至る哲学の流れを俯瞰します。
（河合）
僕はあの話を聴いていて思ったけど、これからどうも幸福の哲学を語る人が、日本にも出てくるのではないかと思ったわけですよ。哲学学時代がいっぺんあって、それでゲッソリして、それからハウツーになって……。ところがハウツーを言ってもだめだということが皆わかってきますからね。まだまだわかってないけど、わかりつつありますよね。
（鷲田）
まだ、これからですかね。
（河合）
ええ。その間に日本の現状を踏まえて、幸福について思索した哲学というものは出てくるし、読まれるし、というふうになるんじゃないかなとちょっと思ってたんです。
（株）コーチビジネス研究所は、「最も人を幸せにする企業が最も幸せになる“幸せ創造企業”をサポートします」を経営理念として掲げています。
「幸福について思索するコーチング」を広めるべく、これからも活動してまいりますので。
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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