それぞれの分野において、世界的なオーソリティーとしてその名望が確立している人物を眺める際、多くの人は、その人から伝わってくる「人格」と「凄み」は、過去から持ち得ていた、と感じているのではないでしょうか。
前回の解説で、臨床心理学者とは、「さまざまなバイアスの存在を知的に理解し、そのことから自由になることができる専門家」である、とコメントしました。その専門家の嚆矢が河合隼雄さんです。
ところがその河合さんも、臨床心理学を学び始めた31歳の頃は、そのバイアスに囚われていたことが伝わってきて、安堵することが出来そうです。
「巨人」は最初から存在しているわけでなく、本人の努力によって「巨人」になっていく、ということが河合さんの人生を通じて伝わってきます。臨床心理学者の世界的権威である河合さんも、そのスタートは「普通の人」でした（笑）
アメリカ留学に続くスイスのユング研究所で、河合さんはインスパイアされます。「臨床心理学の巨人」が誕生していく「きっかけ」が、そこに見出せそうです。
『大人の友情』の9番目のテーマ「友情と同性愛」の第2話「同性・愛」と「同・性愛」は、次の言葉から始まります。
アメリカ留学に続いて、1962年にはスイスのユング研究所に留学した。ここでは心理的な問題や悩みをもって来談する人をどのように援助すべきかについて、理論的な講義もあるが、実際例に基づいて指導を受ける機会が多い。
河合さんは、「現在は随分と変化しているが、同性愛は当時のアメリカでは“異常”、ときには“罪”と思われていたので、同性愛に関しては非常に神経過敏であった」と、振り返ります。ユング研究所で、指導者であるフランツ・リックリン博士の言葉に、河合さんは啓発を受けます。
同性愛（ホモセクシュアル）はたとえ問題としても、ホモエロスとは異なる。とリックリン博士が言ったのは非常に興味深い。男と男、女と女の間にもエロスははたらくし、それは素晴らしいと言える。しかし、それは性行動を共にする関係とは異なるのだと言うのである。
しかし、これに続いてリックリン博士の述べたことは私にとって極めて衝撃的であった。ついでに言っておくが、と彼は断って、同性愛の場合、心理療法によって異性愛へと変化する方がいい例と、同性愛を治そうなどと思わず、同性愛のままで、その人の自己実現をはかることを考えた方がいい例とがある。
今ではこのような考えが一般的であるが、当時は…特に欧米社会においては…稀有なことだったので、驚いてしまった。
河合さんはこの後で、トーマス・マンの『トニオ・クレーゲル』を取り上げ、14歳のトニオが、愛するハンス・ハンゼンに抱く、強い感情描写のシーンに注目します。少し長いので一部を引用することにします。
「トニオ・クレーゲルは彼と相知って以来、その姿さえ見れば憧れに、ねたましい憧れに、胸が熱くうずいた。君みたいに瞳が青くて、それから君みたいにきちんと誰とでも睦まじく暮らせて行けたらなあ。君はいつだって、誰が見ても躾のいい尊敬されるようなことをやっている。…」
「友情と同性愛」の第2話は、次の第3話に続く流れです。河合さんは、この2話を次の言葉で収めています。
少年が同性の友に心をときめかす状態が、的確に描かれている。リックリン博士なら、これはホモセクシュアルではなくホモエロスだ、と言うかもしれないが、それにしても、ここまで強く魅力を感じさせる力の秘密はどこにあるのだろう。
今回の解説はここで終わろうと思ったのですが、第2話のエッセイタイトルが、何故「同性・愛」と「同・性愛」、なのか、という点について説明していないことに気づきました。リックリン博士が、ホモエロスとホモセクシュアルの違いを指摘したところで、河合さんは想像の羽を広げています。河合さんは、前者を「同性・愛」、後者を「同・性愛」と解釈しました（笑）
私はこのことを聞きながら、同性を愛するのは良いが性愛（性行動）を同じくするのは困るというのだから、日本語にすれば、「同性・愛」と「同・性愛」とでも区別して表現するといいな、などとばかけたことを考えたものである。
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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