それは、できるかぎり自由になるということだと思います。

(鷲田)
……前回も「聴く」ということを、先生が話題にしてくださったんですが、そのときに、聴くというのは言葉を受けとめるということで、とても大事なことだと思うけれども、大事なことは、話の内容も大事だが、要するに内容を肯定しようと否定しようと、むしろことばを受けとめてもらったという気持ちが相手にあったらもうそれでいいんだ、とおっしゃいましたね。今、その病院の話をして考えるのは、要するに、関心を自分に持ってもらっているということが感じられたら、ちゃんとわかってくれなくてもいいんだということなのではないでしょうか。

今回の解説は『臨床とことば』第3章の8番目の見出し、「個より普遍に至る道」を取り上げます。冒頭の引用は、鷲田さんは手術で三週間入院した際に目撃した、「ある看護師さんの心温まるエピソード」を河合さんに紹介し、一つの「気づき」を語っているシーンです。

病院は「ケア」することが目的の場ですから、コーチングとはシチュエーションは異なるものの、鷲田さんの「気づき」は、コーチングの視点と共通するものがあります。ただし、「わかってくれなくてもいいんだ」という表現は、「ちょっと…」と感じるかもしれませんね。ここは補足させていただきます。
2022年9月20日に「コーチングにおける共感とは?」の中で記述した内容を一部引用します。

共感とは「共に感じる」ということであり、価値観の異なる人同士が、その感覚を純粋に得ることは容易ではありません。そもそも人はそれぞれ別の個体であり、相手は自分ではありません。つまり自分ではないので、考え方、感受性は異なります。したがって「私はあなたと同じ感覚です」とは、言えないのが自明です。
言い換えると、「私はあなたの気持ちがわかる」と言い切ることに慎重になる心持ちが、共感的理解につながっていくのです。

日常会話で、「その気持ちわかる~」とか「ちゃんと理解しているよ」という言葉は、とても頻繁に用いられます。相手からその言葉が返ってくると、「気持ちいい感覚」が訪れるのは必定ですね。ですから、テンポよく会話が展開する際の「潤滑剤」として捉える分には、特に問題は生じません。ただし、「共感」の本質に迫ろうとすると、上記の視点に行き着きます。
そして鷲田さんは、「病気でない人は患者の本当の気持ちはわからない」と誰もがうなづく「病院」での出来事を語っていますから。

鷲田さんの話はしばらく続きます。一段落したところで、河合さんはおもむろに、「自由」という表現を使って、鷲田さんに一つの見解を伝えます。

(河合)
それは、できるかぎり自由になるということだと思います。
(鷲田)
自由になるということですか。それはケアということからも自由になるということ。

鷲田さんは「熱心な人ほど自由になれないですね」と、「自由」という抽象的な言葉が出てきたことに、少し戸惑います。
カウンセラーとしてさまざまな臨床の現場を経験し、多くのクライアントに寄り添ってきた河合さんが語る「自由」をしっかり受けとめようと思います。

(河合)
そう、そう。助けないといかんとか、何かしなきゃいかんとかがしっかりと頭にあるほど、自由度が低くなるわけですね。だから、「助けたい、役に立ちたい」というのはだんだんぼやけてきますよ。それがギュッとあるのはだめですね。
それはスポーツでもそうですよ。この間の話で「勝ちたいと思うたらだめや」という。勝たないといけないんだけどね。しかし、その看護師さんの話は、いい話ですね。


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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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