（河合）
父上様、母上様に続いて「姉上様 何何は美味しうございました」と、食べ物がずっと続くんですよ。僕はそれをもじって、比叡山会議の翌日あるところでしゃべったんです。「皆さん、こういう遺書があるんです。今の子が死ぬときどう書くと思いますか。父上、母上、インスタントラーメンはまずうございました。お姉様、マクドナルドをいつもありがとうございました。これで遺書になりますか？」。そう言って、笑わせたんですけどね。
（鷲田）
なるほど。
前回まで、『臨床とことば』第3章の6番目の見出し、「“食事”と“性事”」を複数回取り上げました。今回は、次の7番目である「食という切実なテーマ」についてコーチングの解説をやってみようと思います。
冒頭の引用は、スタートのお二人のやりとりに続く、河合さんのウイットあふれる語りです。河合さんは臨床心理学者として、多くの学術論文を発表しています。一方で、駄洒落をまぶしたウイット満載のエッセイ集なども著されています。対象となる読者は異なりますので、河合さんは文体を見事に変えているんですね。
変幻自在の文筆家であり、だからこそ、一人ひとりが全く異なるクライアントに「河合さんは私と対等に接してくれている」と感じさせる「人間関係のプロフェッショナル」なのですね。プロコーチとしても「学ぶべき態度」であると強く感じるところです。
冒頭の引用の前で交わされる「この見出し」の始まりの対話は次の通りです。
（河合）
鷲田さん、この間ご一緒した比叡山の会議で「円谷の遺書」を読まれたでしょう？
（鷲田）
はい。
（河合）
あれは感激したね。
（鷲田）
マラソンランナーの円谷幸吉が身内に宛てて残した遺書ですね。「父上様 母上様 三日とろろ 美味しうございました」で始まる……。
この円谷幸吉の人生は、学校の教科書に取り上げられます。筆者も心を揺さぶられた記憶として残っています。
さて冒頭の河合さんの例え話は、「円谷幸吉の遺書」という極めてシリアスな話を「現代の子どもが遺書を書くと…」というふうに、展開しているわけですが、考えてみると「あぶない内容」を語っています。でも、笑うことができる…
ある人にとっては「不謹慎だ」と受けとめるかもしれません。河合さんは「どんな過酷な状況にあってもユーモアは大切である」という信念をお持ちです。このあたりは意見が割れるところかもしれませんね。河合さんの言葉に触れると、筆者は時おりフランクルを思い出します。
この後に続く、お二人の対話を引用して、今回の解説を終えることにします。
（鷲田）
円谷は、ある意味では幸福やったんですかね。
（河合）
ある意味では、そう思いますよ。
（鷲田）
そういうことがわかるから、よけいに痛切だったんでしょうね。
（河合）
それだけ味がわかっている人が、味のわからない世界に入ってしまった。一番とか二番とかという、味も何もない数字だけの世界……。それで二番のほうが三番より絶対に偉いという。そうでしょう？
（鷲田）
なるほど。私は、あれは悲しい遺書と思ったんです。つまり、自分の幸福というものが食い物を並べることでしか、とネガティブにとらえてたんですね。逆ですね。
（河合）
僕は、ものすごく感激しました。しかも、あの遺書には、自分がオリンピックで何番でしたなんて、どこにも書いていない。
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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