河合隼雄さんのエッセイ集である『こころの処方箋』の19番目のタイトルは、「男女は協力し合えても理解し合うことは難しい」です。
臨床心理学者である合さんが、心理学に関する本を著す場合、ユングをはじめとする、さまざまな心理学者の研究や理論に基づいて解説を進めるのが通常です。ところが今回のエッセイは、その知見を踏まえつつも、河合さんの人生観によって文が綴られているように感じられます。
省エネがやかましく言われた頃、それほど高いビルではなかったある企業で、「エレベーターを使わない」という決まりがつくられます。ただ、それを守らない社員もいるようで、その企業の課長が順番に、監視役として、一階の物かげに隠れて張り番をし、不心得者が居ると注意することになります。事例の課長にも順番が回ってくる。ところが、やっているうちに馬鹿くさくなってきます。課長は、妻が家でよく言っていることを思い出します。「あなたは会社で好きなことばかりして……」と。月給を貰うためには、こんな馬鹿げたことをやらされているのだ、という思いから、日頃めったに「対話」をしない妻に、このことを伝えて、理解を得ようと思うのですが…
奥さんは、はじめあっけに取られたような顔をして聞いていてが、ハッハッと笑い出して、「日本の企業はお金持ちね、そんなツマラヌ仕事をさせといて高い給料を払うんだからね」と言った。娘もそれを聞いて笑い、「男なんて偉そうに言っていて、会社ではそんな楽なことで時間をつぶしているのね」と言うのである。課長さんは二の句がつげず、「まあね」とか言って苦笑いしてごまかしてしまったが、「女というものは、ほんとに男の気持ちがわからぬものだ」と思ったという。
事例は、すこし昭和っぽいですが、夫婦の会話にありがちなチグハグを、河合さんは面白おかしく語ってくれました。
河合さんは「早くローンを返さねばならないとか、この子を大学に入れるまでとか。夫婦が何か共有の目標をもっているときは、お互いに相当に協力できるようである」と、コメントした後で、次のように話を進めます。
協力し合っているときは、相手のことなど深く考えず、ともかく目標に向かって前進する。そのとき、自分が喜んでいるときに相手の方はそれを支える苦労で半泣きになっていたりしても気がつかない。ところが、目標を達成してしまって、やれやれと思って、二人が向き合ってみると、お互いのことを本当に知らないままで来たことに思いあたる。
そして河合さんは、夫婦が互いに他を理解することは「命がけの仕事である」と訴えます。
今まで仲良くやっていた夫婦が中年になって、急にギクシャクしだしたり、離婚などということまで出て来そうになるのは、多くの場合、協力から理解へと至る谷間にさしかかっているときである。そして、われわれは男女が互いに他を理解するということは、ほとんど不可能に近く、また、時にそれは命がけの仕事と言っていいほどのことであることを、よくよく自覚する必要がある。
河合さんには珍しい強い表現であることに驚かされます。カウンセリングを通じて、多くの夫婦の問題に取り組んできたこともその背景として伺われますが、河合さんご自身の夫婦関係を「問わず語り」されているようにも感じました。
最後のパラグラフを引用して、今回の解説を終えることにします。
協力関係を「理解」と取り違える人は、どうして相手が急にわからずやになったのかと思ったり、今までの協力が偽物だったのかと思ったりするが、そうではない。男女が理解し合うことは実に大変なことであり、それは一般的に言って、中年になってから始まると言っていいだろう。そして、その難しさをよく自覚していると、少しの不理解で驚いたり、怒ったりするのではなく、それから迎える老年のために、新たな気持ちで少しずつ努力を続けてゆこうという気にもなるだろう。
コーチング情報局を運営する株式会社コーチビジネス研究所では、企業を対象としたコーチング研修、ビジネスパーソンを対象としたビジネスコーチング、個人の方を対象としたライフコーチングを提供しております。その他、コーチングを学びたい方のためのコーチングスクールの運営、経営者やビジネスリーダー向けにセミナーを開催しています。興味や関心がございましたら、お気軽にご相談・お問い合わせください。
This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
Coach Business Laboratory, Inc., which operates the Coaching Information Bureau, provides coaching training for companies, business coaching for business people, and life coaching for individuals. In addition, we operate a coaching school for those who want to learn coaching and hold seminars for executives and business leaders. If you are interested or have any questions, please feel free to contact us for further information and consultation.