『臨床とことば』を引用してのコーチング解説は、前回でその第1章~第3章を終えています。今回より、鷲田さんの一人語りである「第4章+文庫版あとがき」に移ります。
同書(単行本)は2003年2月に、「阪急コミュニケーション」より刊行されました(第1章~第4章)。文庫版は、2010年4月に「朝日文庫」より出版され、筆者はその5刷(2022年5月発行)を読み込み、コーチング解説を重ねています。文庫版は河合さんの逝去(2007年)の後の出版ということもあり、追悼の意も込められています。
今回は、4章を飛び越えてまずは、鷲田さんの「文庫版あとがき」を取り上げることにしましょう。その冒頭です。
(鷲田)
いまは亡き河合隼雄先生と膝を突き合わせてお話しできるようになったのは、最後の七、八年ほどのあいだのことだ。親しくお話させていただくようになって、それ以前に妄想していた「怪物」というイメージが、かき消されるどころか、いっそう生々しいものになった。
この「あとがき」は、鷲田さんが大阪大学総長のときに書かれています。「言葉をどこまでもどこまでも究めつくす」哲学者である鷲田さん(日本の哲学界におけるオーソリティーです)による、河合さんへの「オマージュの書」としての趣があります。
河合先生はいつも肩の力を抜き、飄々としておられた。それに何より駄洒落の名人である。はじめのうちはその駄洒落にちらっと対抗心も芽生えはしたが、一時間もしないうちにそれも失せた。勝負にならないのであった。で、本題に入ると、どんな些細なエピソードにも「ほう」と応じてくださり、ときに連続ジャブを入れつつにっこりとされるのに、話がある主題にさしかかると、ふとことばが途切れ、先生がその場から消えてしまわれ、ひとり置いてきぼりをくったような思いにとらわれて、呆然とした。
ここを読んだ時、村上春樹さんが、河合隼雄さんと最初に会ったシーンが頭に浮かんできました。そのシーンは『職業としての小説家(文庫版)』の最終話「物語のあるところ……河合隼雄先生の思い出(第12回)」に描かれています。
とにかくプリンストン大学で、僕は初めて河合先生にお目にかかりました。まず二人だけで三十分ほど話したのですが、初対面の印象は「ずいぶん無口で暗い感じの人だな」というものでした。いちばんびっくりしたのはその目でした。目が据わっているというか、なんとなくどろんとしているんです。奥が見えない。これは言い方はちょっと悪いかもしれませんが、尋常の人の目じゃないと僕は感じました。何かしら重い、含みのある目です。
春樹さんは哲学者ではなく小説家です。ただ、「言葉をどこまでもどこまでも究めつくす」という意味では、そこに違いはないと感じます。もちろん、現れてくる文字の流れは「異なるもの」として私たちに届けられますが。
「僕は小説家ですので、人を観察するのが仕事です。細かく観察し、とりあえず簡単にプロセスはしますが、判断はしません」とこの後、補足するような言葉が続き、「とにかく一風変わった出会いでした。とくに僕がよく記憶しているのは、その不思議な眼光です。これは今でもちょっと忘れられません」と、その時の印象を語ります。
鷲田清一さんによるオマージュの「言葉」を紹介するつもりが、いつのまにか春樹さんの「語り」に変ってしまいました。続く春樹さんの「語り」を紹介させていただきます。
次回も春樹さんと河合さんの出会いを取り上げてみようと思います。
でもその翌日、二度目にお目にかかったとき、河合先生は打って変わったように快活で上機嫌で、ひっきりなしに冗談を口にされていました。顔つきもがらりと明るくなり、その目はまるで子どもの目のように澄んだ奥行きがありました。話もはずみました。一晩でこれくらい人は変われるものなのか、とあきれるくらいです。それで僕にも「ああ、昨日はこの人はきっと意識的に、自分を受動体勢に置いていたんだな」とわかったわけです。おそらく自分を殺してというか、自分を無に近づけ、相手の「ありよう」をテキストとして、あるがままに吸い込もうとしておられたのでしょう。……
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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