今回のキーワード解説は、河合隼雄さんの『＜心理療法コレクションⅥ＞心理療法入門』第8章にある「新しい家族関係」を取り上げます。
他の心理療法家から聞いて、深く印象づけられたことがある。それは家庭内で暴力を振るう男子高校生に、両親が自分たちは子どもに必要なものをすべて与えてきたのに、何が不足で暴力を振るうのかと言ったとき、息子が「この家に宗教があるのか」と問いかけた、という話である。これは、日本の家族の在り方に対する痛烈な批判である。（中略）
「ある人にとって必要なすべてのもの」を与えるなど、人間にとってできることだろうか。親は何でも金で手に入ると思っているうちに、自分は神だと錯覚したのではないか。その傲慢さを打ち破るには、暴力しかなかったのではないだろうか。
こう考えてくると、この高校生の言葉は、一軒の特別な「家」に対してではなく、日本のすべての家庭に向かって投げかけられたもの、と言うべきではなかろうか。心理療法の場における個人との対話は、このように普遍性をもったものとして感じられるのである。それらはすべて、新しい家族を作り出そうとする契機を与えてくれる。（208・209ページ）
心理学の一分野に「家族心理学」があります。
前提として、問題行動を起こしている家族メンバーをIP（Identified Patient → 患者と“みなされる人”）と仮称し、決めつけるのを避けます。家族関係のトラブルは、まさに「関係性」によって生じてきます。従来の「イエ」である大家族のような、さまざまな個性を持った複数の構成メンバーが子育てに関与していた環境ではなく、上記の例にある核家族の場合、本質的なコミュニケーションを欠いたまま時が経ち、親の自明としていた価値観に対し、子どもの異なる価値観が表出したとき、内在化していた問題が一気に爆発してしまう、という現象です。
河合さんのこの著作は、2000年代の初頭のものです。20年を経ていることもあり、CBLコーチング情報局で少し補足させていただきます。
河合さんが「一軒の特別な「家」に対してではなく、日本のすべての家庭に向かって投げかけられたもの」と語っているように、そのころまでは、「両親と子どもからなる世帯」が、日本のメジャーを占める「家族」でした。その割合は、1995年が42.9%、2000年調査も37.3%です。もっともその時点で、子どもの数が1人の世帯が7割となっています。
それが直近の2020年になると、25.1％まで減っています。加えて離婚率の上昇から、「ひとりの親と子ども世帯」の割合が増加しているのです。その内訳は圧倒的に母子家庭です。
このことから「家族」に関する問題は、さらに複雑化していると言えそうです。母子家庭に見られる貧困の問題も顕在化しています。
このような急速な環境変化を踏まえると、「良好な人間関係は、専門機関、専門家に頼らなくても自然に形成されていく」との楽観性は、疑問符が点滅しているようにも感じられます。「少子高齢化」という言葉が独り歩きし、その対策もさまざま議論されていますが、一つひとつの家族に対応していく家族心理学、そして「真のコミュニケーションとは何か」を研究し、人が本来持つ力の発現をサポートしていくコーチング。
まさに時代が求めている「社会的要請」であることが実感されますね。
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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