死ぬまでには、ときどき「命がけ」のことをやってみると面白くなる!?

河合隼雄さんのエッセイ集である『こころの処方箋』の20番目のタイトルは、「人間理解は命がけの仕事である」です。

一つ前の19回目のタイトルは、「男女は協力し合えても理解し合うことは難しい」でした。河合さんには珍しい「熱い筆致」であったことを、ご自身が自覚されたのか、あるいは「ジェンダーバイアスを指摘されるかもしれない」という気づきによってか(これは少し勘ぐりすぎかもしれませんが…)、20回目は「男女」の視点を「人間」に置き換えて、河合さんは語りを進めます。

前回で、男女の相互理解がいかに難しいかについて述べたとき、相手を理解するのは命がけの仕事だという表現をした。これはまた何と大げさなと思われた人もあっただろうが、私は、他人を真に理解するということは、命がけの仕事であると思っている。このことを認識せずに、「人間理解が大切だ」などと言っている人は、話が甘すぎるようである。

河合さんはカウンセラーです。クライアントは「精神に重篤な悩みを抱えている人」の場合も多く、前半の例話は、まさに「カウンセラーとは命がけの仕事なのだな…」ということがひしひしと伝わってくる内容です。そこで今回の解説は、コーチングに敷衍できる後半の事例を取り上げることにします。

このように大それたことではなく、一見簡単そうに見えることでも、理解することの困難さを示す例をあげてみよう。たとえば、夫はお金を派手に使う方だが、妻は倹約家である場合を考えてみよう。両者が「協力関係」にあるときは、適当にバランスがとれてうまくゆくだろう。しかし、二人が正面から向き合って、理解し合うということになったとき、妻が「倹約の美徳」を説き、夫が真にそれを理解しようとすると、今までの自分の生き方は、まったく馬鹿げており、それを妻のおかげで支えてきた、と考えねばならなくなってくるのではなかろうか。いやそんなことはない、倹約はケチに通じるのであって、自分が派手にお金を使ってきたので、他人の評判もよく保つことができたのだ、などと言いだすと、妻は「私のことをあなたは本当に理解していない」と言い出すのではなかろうか。

フロイトが、クライアントを患者として、治療する対象とみる「精神分析」は、「おかしい」と異を唱え、さまざまな体験と深い思索を経て、生み出されたのがロジャーズの3原則(来談者中心療法)です。今日、世界のカウンセリング界において、共有される根本概念です。その3原則の一つが「共感的理解」であり、河合さんは、そのことを「命がけ」という言葉で紐解いているのですね。

うっかり他人のことを理解しようとし出すと、自分の人生観が根っこのあたりでぐらついてくる。これはやはり「命がけ」と表現していいことではなかろうか。実際に、自分の根っこをぐらつかせずに、他人を理解しようとするなど、甘すぎるのである。

河合さんは、今回のエッセイも「河合流」でまとめてくれました。「命がけ」をやってみよう! とモチベーションが高まってくるようです。

以上のことがわかってくると、だから「人間理解」などということは、できるだけしないようにしよう、という結論を出す人も居られるだろう。それも結構だが、私はせっかく生まれてきたのだから、死ぬまでには、ときどき「命がけ」のことをやってみないと面白くないのでは、と思っている。


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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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