河合隼雄さんのエッセイ集である『こころの処方箋』の39番目のタイトルは、「『昔はよかった』とは進歩についてゆけぬ人の言葉である」です。
河合さんは冒頭で、三千年前から、人間は「昔はよかった」という言葉が好きであったことを取り上げます。
約三千年程以前に書かれたバビロニアの粘土書版にも、「今日の若者は根本から退廃しきっている」、「以前の若者のごとくたちなおることは、もはや望むべくもない」というようなことが書いてあるとか。どうして、人間は「昔はよかった」と言うのが好きなのだろう。
筆者は高齢者と定義される年代です。このエッセイ集は、発刊された1992年に手に取っています。そして、コーチングを解説するにあたって、30年を経て、こうして再読しているのですが、毎日のように終業後、上司に「飲み」に誘われ(話を盛っているのではなく、本当に“ほぼ毎日”でした)、この言葉を聞かされていたことを思い返しています。
「昔はよかった」と言う人の話を聞くと、大体は、「自分の子どもだった頃は」とか、「自分の青年時代は」とか、言うことになって、それに比べて「今の……」はなっていないというような非難につながってくる。「昔」はと言っても、自分がかつて生きていた時代のことを言っているので、江戸時代とか鎌倉時代に比して……などと話す人は非常に少ないことがわかる。「昔」と「今」の比較をしているのではなく、要するに「自分が若かったときは」「自分たちは」よかったと言いたいのである。
「世代間ギャップ」がどの時代にも存在したことは想像に難くありません。河合さんは臨床心理学者の視点で「この言葉」を腑分けします。河合さんが64歳の時でした。
「昔はよかった」論はどうも不毛なことが多いようだが、それにしてはよく聞かされるし、自分もつい言いたくなることが多いのはどうしてなのだろう。それはやはり、社会の変化に自分がついてゆけなくなったときに、そう言いたくなるのではなかろうか。
現在の若者の生き方についてゆけない。そのとき、それをそのまま認めるのは残念だったり、腹が立ったりするので、今時の若者はなっていない、というように言いたくなるのではなかろうか。このために、人間は三千年も前から「今時の若者は駄目だ。だんだんと悪くなる」と繰り返しながら「進歩」してきたのではなかろうか。
私が30年前に、上司からこの言葉を聞かされた際に感じた思いを振り返っているのですが、その上司からは、河合さんの少しネガティブな視点とは別に、どことなく年の功としての「余裕」が感じられました。
ところが、筆者も高齢者となっている現在、当時の上司のような余裕はとても抱くことができません。2023年の今年、チャットGPTに代表される生成AIが登場し、シンギュラリティの到来が、「ありえない」から「ひょっとして…」という真実味を帯びてきています。
とはいうものの、このように受けとめてしまう人間の心は、どの時代もそうであったように、人間を取り巻く世界・社会が変化しても、適応していけるようにも感じています。そうあってほしい、という願望を込めて…
河合さんがこのエッセイの最後で語る、“ほっ”とできる言葉を引用して。今回の解説を終えることにしましょう。
もっとも、人間は時に自らを慰めて、ほっとすることも必要なので、飲んだときなど仲間と一緒になって、「昔はよかった」と嘆いてみるのも自分の精神衛生のためにはいいことだが、だからといってそれがどうということでもないと知っておくべきだろう。
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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