それがわかったのは、僕自身ときどき同じようなことをするからです。とくにインタビューをしているときには、集中して相手の言葉に耳を傾け、自分の意識の流れみたいなものを消してしまいます。そういう切り替えがうまくできないと、真剣に人の話を聴くことはできないんです。僕はその何年かあと『アンダーグラウンド』という地下鉄サリン事件を扱った本を書くにあたって、そういうインタビューの作業を一年間とおして続けましたが、そのとき「ああ、これは河合先生があのときやっていたのと同じことなんだな」とあらためて思いました。そういう意味では、河合先生のお仕事と僕らがやっている仕事とは、重なる部分が少しあるのかもしれません。
前回、『臨床とことば』がいつの間にか、『職業としての小説家』に変ってしまいましたが、その流れに身を委ねてみようと思います
河合さんと最初に会った時、「その不思議な眼光」に春樹さんはとまどいます。ところが翌日、打って変わって「顔つきもがらりと明るくなり、その目はまるで子供のように澄んだ奥行きがありました」…というその変化を虚心に受けとめ、初対面の際は「自分を無に近づけ、相手の“ありよう”をテキストとして、あるがままに吸い込もうとしておられた」のではないか、と春樹さんが推測したところまでを、前回取り上げています。冒頭の引用はその続きです。
春樹さんの語りは「コーチングの本質」にもつながっている、と実感されます。
インタビューとコーチングは、その定義を異にしますが、春樹さんのインタビューは、「その記憶を忘却したい」と感じている「地下鉄サリン事件」の被害者との対話です。
春樹さんは、インタビューしていることに悩みます。そのことを『約束された場所で』のなかで、虚心に河合さんに開示しています。その箇所を引用します。
(村上)
事実をどんどん聞いていくというのは、ある場合にはかなりきついことですね。僕がこの仕事をやっていていちばんきつかったのは、あるいはジレンマといってもいいと思うんですが、事件の話を口にすることによって良い方向に向かう人もいれば、逆にまた調子が悪くなってしまう人もいるということでした。それで、僕も途中からかなりなやみはじめたんです。
ここからの対話は、春樹さんがクライアント、河合さんがコーチとなってのセッションそのものです。インタビューによって「また調子も悪くなってしまう人もいる…」と悩む春樹さんに、河合さんは次のような言葉をかけています。
(河合)
……でもね、そういう話をしてしまって、そのときは悪くなられたとしても、それは次に良くなるためのステップとしてそうなることもあるんです。だから簡単には良い悪いは言えません。「わー、言うてしもうた」と落ち込んでいても、「でもやっぱりそうなんやな」と思い直して、もう一回ぐっと上がってきます。そういうこともよくあります。
(村上)
僕も話を聞いているとき、感覚はできるだけ鋭敏にしてはいるんです。いろんなことを本能で判断しようとします。でもそこまで先は読めませんよね。「結局はよくなった」としても、よくなるまでにどれだけの期間がかかるかなんてこともわかりませんし。
(河合)
そうですね。そこまではわかりません。でも「会って話そう」と向こうが言ったわけだから、それはある程度割り切らなくては仕方ないですね。(中略)
こうして本になって活字で読むと、腹におさまっていくんです。「ああ、そういうことだったのか」とまわりもわかってもらえるんです。そういう意味では喜ばれたんじゃないでしょうか。
春樹さんと河合さんについてのエピソードを2話ほど取り上げました。次回は『臨床とことば』に戻ります。今回の最後に、春樹さんがコーチングの「傾聴」を体得していることが“ものすごく”伝わってくる、河合さんのフィードバックを引用することにします。
(河合)
でもこれは村上さんが聞いている態度によって、これだけのもんが出てきたんだと思います。僕は内容を見ていると、それがすごくよくわかります。村上さんはここでは聞き役で、ほとんど前に出てこないけれど、こういうことをしゃべるというのは、村上さんが聞いているから出てくるんであって、普通の人が聞いても出てきません。ほんとうにそうですよ。
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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