対談の途中、先生は一度、深い悲しみの表情を見せられました。御巣鷹山に墜落した日航機に、九つの男の子を一人乗せたお母さんの話が出た時でした。心弾む一人旅になるはずが、あんな悲劇に巻き込まれ、お母さんは一生拭えない罪悪感を背負うことになったのです。……
『生きるとは、自分の物語をつくること』の14番目の見出しは「西欧一神教の人生観」です。
ここでの対話は、「『源氏物語』には“物の怪”みたいなものが出てくる…」からはじまり、「今はそういうのがない分、大量殺人や大量の死亡事件が起こるわけです」と、河合さんが言葉にすることで、小川さんが「私は、人が大勢一度に死ぬということに対してどうしても素通りできない…」と、応えます。
御巣鷹山の日航機事故から20年が経過した2005年(対談は2006年に実施されています)に、関連本が書店に出たことで、小川さんは『日航ジャンボ機墜落―朝日新聞の24時』(1990年朝日文庫)を手に取っています。その本について…
(小川)
……巻末に、乗客全員の氏名・年齢・住所、乗っていた目的が、それぞれ一行で書いてありました。今だったらたぶん、個人情報保護法で出せないと思うのですが、それを一日中でも読んでいられるんです。
(河合)
いや、そうでしょうね。
(小川)
そこには何の感情も込められていない。たとえば、「何の何某(四十幾つ)、会社員、東京での出張の帰り」というように書いてあるだけなんです。
(河合)
でもその一行は、全部一つ一つの物語をもっているんですね。
(小川)
そうなんです。何冊もの本を読んだような気分になりました。
しばらく、この本の内容について、お二人の話が続きます。そして…
(小川)
墜落機に一人で乗っていた小学生の男の子がいました。夏休みに、甲子園に清原と桑田の試合を見に行くというので、お母さんがその子を一人で乗せたんです。
(河合)
堪りませんね。
(小川)
そういう事実を、一行一行読んでいくと、抜け出せなくなります。自分が小説を書いている意味を問い詰められている気持になりました。……
小川さんの語りは続きます。このあたり(97~99ページ)の河合さんは聴き役です。「堪りませんね。」の後も、小川さんの長い語りに対して、「そうですか。」と少なく声が挟まれます。
『生きるとは、自分の物語をつくること』は、純粋な対談本であり、対話の間にト書や説明が挟まれません(写真等もない)。読者は「言葉」の文字を追っていくだけです。したがって、ここを読んだ際、筆者は河合さんの「想い」や「感情」について、特にイメージすることなく、ページを繰っています。
小川さんの語りが一段落した後、河合さんが米国プリンストン大学で学生に講義したときのエピソードに話題が転じ、見出しの「西欧一神教の人生観」に像が結ばれていきます。
さて、冒頭の引用は何かというと…
小川さんの「二人のルート~少し長すぎるあとがき(121~151ページ)」の中にある144ページの部分です。その続きを以下に引用します。小説家の小川さんは、河合さんを深く受けとめました。お二人の「対話」に小川さんの「心の言葉」と「五感」が交じり合い、新たな「物語」が誕生したのです。筆者は「信実のコーチング」を感じています。
……その瞬間、先生の顔に浮かんだ表情、思わず漏れた声、宙の一点に絞られた視線、それらに接した私は、失礼にも「先生は本物だ」と確信しました。もちろん先生に対して何か疑いのようなものを抱いていたわけでは決してありません。ただその一瞬を目の当たりにし、著作から感じていたことや実際お会いして抱いたイメージと、目の前にいる先生の存在がすべて滞りなく一続きにつながったのです。一瞬にして先生は、今ここにいない、名前も知らない誰かの悲しみをキャッチし、自分の中に取り込まれたのです。単なる対談の一つの話題としてあしらうのではなく、恐らく人間に課せられる最も大きな悲しみであろうそれを、そのお母さんと共有したのです。
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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