河合隼雄さんのエッセイ集である『こころの処方箋』の42番目のタイトルは、「日本的民主主義は創造の芽をつみやすい」です。
42番目のコラムタイトルは、これまでとは少し異なりますね。冒頭で、「そもそも民主主義とは何かなどという堅い話ではなく、日本の民主主義ということについて少し考えてみたい」と述べ、河合さん独自の「日本文化論」が展開されます。視点は欧米のそれとの対比です。このエッセイ集は、バブル崩壊が実感されるようになった1992年に発刊されているのですが、そこから「失われた30年」が始まります。
ここで書かれた内容は、今に至る「日本の30年間」を占っているようで、思想家としての河合さんの大きさが実感されます。その姿が立ち昇ってくるところが全4ページの3ページ目に著されているので、引用してみましょう。
日本的民主主義にもいいところは沢山ある。それは簡単に言ってしまえば、西洋近代の個人主義の裏返しのようなもので、集団の全体としてのバランスを保ち、全員がうまく参加してきて、「役割」を超えたはたらきをするなど、数えたてるといくらでも言えるだろう。戦後の日本の復興を支えたひとつの柱と言ってもいいだろう。しかしここで、強調したいのは、このような方法が、「創造性の芽をつむ」という著しい欠点をもつことを、そろそろ日本人全体が自覚する必要がある。全体のバランスということと、創造性ということは、時にその出発点において相容れないものをもっている。創造性とは全体のバランスを壊すことである。もちろん、それが洗練されてゆくうちには、新しい全体のバランスに到達することにもなろうが、何と言っても、最初のところは、個人のうちに生まれてきた、やむにやまれぬひとつの動きとしてそれは現れてくるし、言ってみれば、それはゴツゴツとして、あちこちにぶっつかるものである。
いかがでしょうか。少し長い引用になりましたが、これまでの河合さんの語り口と比べ、大変厳しい筆致です。55のエッセイで構成されるこの本は、後半になって「権力」など、カウンセリングを語りながらも、広く社会、日本文化をテーマにした内容が目立ってきます。
河合さんは、この本が出版された1992年に、長く勤められた京都大学を退官されます。退官後は、プリンストン大学客員研究員、1995年には、梅原猛氏の後を継いでの国際日本文化研究センター二代目所長に就任されます。河合さんが、一人の臨床心理学者から日本文化を世界に発信していく、日本のスポークスマンに変身していく過渡期に書かれたことも、作風に影響を与えたのかもしれません。河合さんが日本に残された最後の仕事は「文化庁長官(3期4年余在任)」であったことを付記しておきます。
河合さんは、この42番目のエッセイの最後あたりで、「日本の民主主義は、全体のバランスの維持に心が向かいすぎて、ゴツゴツした創造性を早くから“円く収めよう”とし過ぎるために、その芽を摘んでしまうのである」、と語ります。「ゴツゴツ」の語感から、河合さんの思いが伝わってくるようです。
2024年も2週目となり、正月気分も抜けて、日本全体がいよいよ動き出します。
後にふり返ったとき、今年が「失われた30年」からの脱却の年だった、となることを祈念し、河合さんが30年前に訴えた当該エッセイの最後5行を、しっかり噛みしめてみたいと思います。
創造性の弱い人は、創造に使用すべき時間とエネルギーをもてあましているので、「民主主義」のためにそれを使用しているつもりで、創造的な人の足を引っぱることに全力をつくしているときもある。既に述べたように、欧米と日本とどちらがいいなどとは簡単に論じられないが、日本的民主主義の功罪について詳細に研究する必要がある、と思われるのである。
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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