『こころの処方箋』最後の「“メタ”エッセイ」は、「人の心などわかるはずがない」だった!

河合隼雄さんの『こころの処方箋』を引用して、コーチングを語ることを続けてきて、その最後を前回の、「創造の種子」が発芽し、伸びてできあがった「創造の作品」は、その人の人生そのものなのである! で終える予定でしたが、今回、もう一つの“エッセイ”を取り上げて、本当の「完」とさせていただこうと思います。

「55のエッセイを集めた本」と何度も紹介していますから、「えっ、もう一つあったの?」と疑問を持たれると思います。実は“エッセイ”と言いましたが、「あとがき」のことです。もちろん、「あとがき」ですから、この本が世に送り出されたことに対する、編集者をはじめとする関係各位への、河合さんの感謝の言葉が綴られています。ただ、55のエッセイを書き終えて、そのことを振り返り、俯瞰した、「“メタ”エッセイ」であることも伝わってくるのですね。

冒頭で… 本書は「『こころ』の処方箋」という題で、『週刊ニュース』に1988年二月号より1991年十二月号まで連載したものに、十章ほどあらたに書き加えたものである… と書かれていますから、四年間にわたって、河合さんが書き続けてきた(月一回の連載)内容が本書にまとめられました。
「あとがき」と題した「“メタ”エッセイ」の部分は、次の言葉から始まります。

読者からの反応、それに思いがけない方が読んでおられて、直接に声をかけて下さったことも、これをここまで続けられるための強い原動力となって作用した。ここに紙面を借りてお礼申し上げる。
よく言われたことは、「フム、フム、と納得しながら読んでいますよ」という類のほめ言葉であった。ほめられるのは嬉しくて、よい気になって書き続けてきたが…」

ここを読んで、「あれっ? 河合さんには珍しいマウントがはじまるのか…」と、一瞬感じたのですが、そうではなく「河合さん流の諧謔」であり、「書き続けることで、ある“気づき”」が生まれたことが語られます。

よく考えてみると、その人が「フム、フム」とうなずくのは、もともと自分の知っていたことが書いてあるからであって、私の書いていることは、既に読者が腹の底では知っていることを書いているのだ、ということに気づいたのである。端的に言えば、ここには「常識」が書いてあるのだ。

ここから、河合さんの深みある「常識論」が展開されます。
「常識」とは「あたりまえのコト」ですから、特別の感慨をもたない「言葉」として多くの人が受けとめるでしょう。そこで、改めて「広辞苑」で“定義”を確認してみました。

普通、一般人が持ち、また、持っているべき知識。専門知識でない、一般的知識とともに理解力・判断力・思慮分別などを含む。

しっかり読んでみると、「とともに」以降の「理解力・判断力・思慮分別」の3つの熟語が使われていることに、「深み」を感じました。河合さんも、この視点を徹底的に深掘りしていきます。

だから、とうとう常識までも本にして売る時代になったのであると。これは、現在のわが国の教育(広い意味)で、常識を教えることが急激に少なくなったためではなかろうか。大体、常識というものは家庭や地域内で、人から人へと伝わるものである。その機会があまりにも減少し、また、常識を伝える人たちの常識に対する自身の喪失ということもあって、子どもたちは常識を身につける機会を失ってしまったのだ。

当たり前に存在するはずの「常識」が「常識」を失っている、というパラドックスです。河合さんは、「常識は言葉にはしにくいのである」と言います。だからこそ、河合さんは「この本でチャレンジした」、と言わんばかりです。

大いに四苦八苦して、ひねり出してきたので、タイトルを見ると「非常識」に見えるのがある。あれっと思って読むと、なかには極めて常識的なことが書かれており、読者は、「フム、フム」と納得する、というわけである。

河合さんは、出版されている多くの本が「非常識」であると、次のようにコメントします。

試しに本屋へ行ってみると、人の心がわかるようなことを書いた本がたくさんあるのに驚かれるであろう。私は新しく相談に来られた人に会う前に、「人の心などわかるはずがない」ということを心の中で呪文のように唱えることにしている。それによって、カウンセラーが他人の心がすぐわかったような気になってしまって、よく犯す失敗から逃れることができるのである。

人の心を徹底的に研究していく「臨床心理学者の世界的オーソリティー」である河合さんの言葉ですから、「真実」そのものの言葉として受けとめています。
「人とのかかわり合い」を専門職とする私たちプロコーチも、この「真実の言葉」を心に刻み込み、呪文を唱えながら、これからも「CBLコーチング情報局」を綴ってまいります。


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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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