『モモ』については「モモと老人」に続いて、「時間の意味」の見出しで、河合隼雄さんは解説を進めます。『＜心理療法コレクションⅢ＞生と死の接点』の205ページです。
モモとベッポの幸福な時間は残念ながら長続きしなかった。「時間どろぼう」の灰色の紳士たちがこの世に現われ、それのもたらす混乱に二人とも巻きこまれたからである。
灰色の紳士たちはまことに巧妙な方法で人々を説得してゆくのだ。たとえば床屋のフージー氏の場合、灰色の男の「わたくしは時間貯蓄銀行から来ました。ナンバーXYQ／384／bというものです。あなたは、わたくしども銀行に口座を開きたいとお考えですね？」などという言葉につられて、いろいろ無駄な時間を節約し、時間の貯金をしようとするのだ。（205ページ）
この床屋は灰色の紳士に説得され、口座をひらきます。「あなたは、ほんとうに近代的、進歩的な人間の仲間に入られたのです」とおだてあげられるのですが、結果は…
彼はだんだんとおこりっぽい、落ちつきのない人になってきました。というのは、ひとつ、ふにおちないことがあるからです。彼が倹約した時間は、じっさい、彼の手もとにひとつも残りませんでした。魔法のようにあとかたもなく消えてなくなってしまうのです。彼の一日一日は、はじめはそれとわからないほど、けれどしだいにはっきりと、短くなってゆきました。（206ページ）
そして登場するのがマイスター・ホラです。河合さんは、ホラをポジティブな「老賢者」と見立て、解釈を展開します。
モモはマイスター・ホラに人間は死んだらどうなるのかを聞く。彼は、人間が死とは何かを知っていたら、怖いとは思わないだろうといい、モモに「時間のみなもと」を見たいかと尋ねる。そして、モモの願いでそれを見せてくれる。「時間のみなもと」は一種の素晴らしい花であった。それを描写するためには、ここにながながと引用しなくてはならぬのでやめておくが、それはまさに時間のみなもとというのにふさわしいものであった。モモはこの素晴らしい光景を友人に伝えたいと思うが、マイスター・ホラは、それを話すためには「お前の中でことばが熟さなくてはいけない」ので今は駄目だという。（208ページ）
小説にはさまざまな分野があります。非現実の世界を描くことによって、読者のこころの内にさまざまな想いが喚起され、現実（うつつ）とは異なる別世界に飛翔することを促すのがファンタジーです。『モモ』は、壮大なファンタジーです。
『モモ』には、さまざまな仕掛けが施されていますから、喚起されるイメージは人それぞれでしょう。カウンセリングとは、「ことば」のやりとりによって関係性をつくり上げていきます。したがって心理療法家（カウンセラー）である河合さんは、『モモ』によって「ことばとは？」を考えます。
コーチングも同様です。『モモ』について語る次の河合さんの「ことば」を、わたしたちコーチも、しっかりかみしめてみようと思います。
いかに素晴らしい体験をしても、「ことばが熟さない」うちにそれを語ると誤解されたり、時には変だと思われたりするものである。作者が「時間のみなもと」について、くどくど描写しなかったのもよかったかもしれない。それは各個人にふさわしい方法によって知るべきことなのである。
マイスター・ホラやモモがどのような方法で灰色の男たちを滅亡させるのか、その楽しいお話しについては原作を読んでいただくことにして、ここでは省略する。われわれとしては、マイスター・ホラという老賢人が言った、人間が死とは何かを知ったら、恐ろしいとは思わないだろう、とか、ことばは心の中で熟すまで待たねばならない、などの知恵を知ったことで満足することにしよう。（208ページ）
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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