河合隼雄さんのエッセイ集である『こころの処方箋』の37番目のタイトルは、「一人でも二人、二人でも一人で生きるつもり」です。
河合さんは、このエッセイのスタートで、子どものいる老齢の夫婦が、子どもから相手にされなくなり、こんなことなら「いっそのこと子どもなど居ない方がよかった」、「なまじ子どもが居るので腹が立つことが多い」と嘆いている情景を語り、次のように話を進めていきます。
夫婦の間でもそうである。夫婦でも年をとってから相手が居てくれてよかったと思っている人と、「この相手さえいなかったら……」と思っている人とがある。一人だったら好きなことができるのに、なまじ相手がいるので気を遣ってしまう。そして、二人で顔を合わすと何だかトゲトゲしてきて、腹が立つようなことを言い合ってしまうのである。
夫婦となり年を経て、相手をどう感じているのか…について、正確な調査は不可能だと思うので、「居てくれてよかった」と「この相手さえ居なければ…」と感じる、その割合は定かではありませんが、自分たち夫婦の在り方を改めて考えてみる「きっかけ」として、この河合さんの言葉を受けとめてみるのも一興ですね。
河合さんは「一人で楽しく生きている人」に、フォーカスしていきます。ユング派心理学者としての河合さんの姿が立ち昇ってきます。
一人で楽しく生きている人は、心のなかに何らかのパートナーをもっているはずである。もちろん、そのパートナーは人によって異なる。「内なる異性」のこともあろう。母なるもの、父なるもの、かも知れない。「もう一人の私」と表現されるかもしれない。ともかく、「話し相手」が居るのである。人間は自分の考えを他人と話し合うことによって、随分と楽しむことができるし、客観化することもできる。一人で生きてゆくためには、そのような意味で「二人」で生きてゆくことができねばならない。
「その本が売れるかどうかは、その本に冠されたタイトルが鍵を握っている」は、出版マーケティングにおける基本のキです。『こころの処方箋』、そして55のエッセイ一つひとつのタイトルは、河合さんが、いかにこの世界に通暁しているかが伺われます。
ただし、この37番目のコラムは、タイトルも含めて少しわかりにくいですね。河合さんには、洒脱な文体を自在に駆使して、私たちに“すっと肚落ち”させてくれる巧みな文筆家としての顔と、一方で学者として「深淵な文章」を綴っていく、という相貌もお持ちです。このエッセイについては、少し後者に寄った雰囲気であることが伝わってきました。
タイトルの意味が“じわり”と沁み込んでくる、最後のパラグラフを紹介して、今回の解説を終えることにします。
二人で生きている人は、一人でも生きられる強さを前提として、二人で生きていくことが必要である。無意識的よりかかりや、だきこみが強くなりすぎると、お互いの自由をあまりにも奪ってしまい、たまらなくなってくるのである。このことは別に依存が悪いと言っているのではない。人間は誰かにある程度依存しないと生きていけないし、依存したり、されたりするのも楽しみのひとつとも言える。問題は、まったく無意識的に一人立ちの力を失ってしまっているところにある。一人でも生きてゆける人間が二人で生き、お互いに助け合ってゆくところに楽しみが見出せるものなのである。
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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