（鷲田）
修練と言っても、すごく大変だろうと想像するんですが、以前「傾聴」のトレーニングをしている方のお話をうかがったとき、やはり相手からことばが漏れてこないで、沈黙に耐えきれないで、ついその沈黙を破ることばを入れますけど、それはしてはいけないと言われまして。どうするんですかと聞いたら、ワンクッションおいて「今何考えてました？」って、ぽつりと訊いたらいい、と。……
前回、河合隼雄さんの「ふわーっと聴くというのは、修練がいる」、という言葉に共感したことを、コメントしました。ただ、その「修練の内容」については、触れていなかったので、『臨床とことば』の「ことばを掴んでしまう」の中から、そのイメージが伝わってくるところを紹介しようと思います。
冒頭で引用した鷲田さんの語りには、続きがあります。
なるほど、臨床の先生はすごいなあと思ったんですけど、それがメソッドになってしまったらだめで。
鷲田さんは、感心した上で、保留の言葉で補完します。河合さんは鷲田さんが「保留」してくれたことで、すぐさま、メソッドを超える「本質」の語りを開始します。
（河合）
だめですね。
（鷲田）
「今何考えてました？」と言っても、かえって見透かされて。
（河合）
そう、それは訊かれたほうは非常に腹立つでしょうね。相手によって違いますしね。ただ、大まかに言えば、相手が出してくれた世界の、そこから私は勝手に出ない、と思っていたらいい。たとえば相手が「僕は高校生です」と言うでしょ。だまって聴いているふりしながら、心の中ではしゃべること考えてる。それはだめで、そこに生きていないとだめ。生きてるということは、やっぱりちょっともの言わんと、生きてられない。そのときに、向こうの提示した世界の外のことは言わない。「いやあ、高校生でしたなあ」とか言うてるわけ。
メソッドとは、「こうすればこうなる」という、パターン化されたノウハウです。河合さんは、「生きる」「人のこころ」、さらに「たましい」という表現を多用します。「傾聴の本質」を体得するための「修練」を甘くみてはいけない！ と河合さんは警鐘を鳴らしてくれます。
鷲田さんは、「共感」について、「言葉」を根幹に据える哲学者としての質問を、河合さんに浴びせます。
（鷲田）
感情移入とか、気持ちが伝染するとか共鳴するとか言いますけど、それはことばの問題なんですか、それとも身体の問題？
（河合）
ことばのレベルはもう超えてますね。その高校生は、学校に行ってないことぐらいしかしゃべってないですから。それ以上何も言ってませんから。僕は苦しいですとは絶対言わないですからね。そんな子は。だから、僕の学校に行けない苦しみをわかってくれたなんて言えるはずがない。
だけどその人の体験としては、ものすごくよくわかる人に会うてきたと思ってるわけ。それは言語表現以前のコミュニケーションとか、関係とかと言わざるをえないんじゃないでしょうか。僕らにとってはそれはすごい大事だと思います。
河合さんのこの言葉を受けた哲学者の鷲田さんは、インスパイアしました。
（鷲田）
他人のことが本当にわかるのかとか、他人は自分と異なる人であるとわかるのかとか、哲学の論議ではいっぱいあるんですけど、結局、感情移入……自分がああいうかっこしているときには、自分はああいう気持ちになるから、彼もそうなんだろうという受け取り方。……
鷲田さんの堰を切ったような長い語りがはじまるのですが、引用はここにとどめます。
「傾聴」の対話はしばらく続きます。今回のまとめとして「聴」と言う文字に込められた意味を最後に説明しておくことにします。
「傾聴」とは、「コーチが耳だけでなく十の目と心によって、声音を超えたクライアントの心の声を感じとること」なのです。
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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