今回のキーワードは、『＜心理療法コレクションⅢ＞生と死の接点』のなかの「死の体験」です。本のタイトルにも通じるテーマですが、河合隼雄さんは「蘇生術の発達」によって、この分野での研究が広がっていったことをコメントします。
ところで、最近は蘇生術が急激に発達したために、臨床的には死と判定されるような状態から蘇生してくる人が以前より多く生じてきた。これらの人にその「死」の体験を聞くと、極めて不思議な体験であるが、そこにある程度一定のパターンが認められることがわかってきた。（68ページ）
河合さんは、以前は「死後の世界」式のキワモノ的に扱われていたのが変化してきていることを語ります。哲学、医学を学んだレイモンド・ムーディが、担当医が死の判断を下した後に蘇生した人や、事故などによって死に瀕した人など150例の体験談に共通点が見出された点について、ある“「理論的な」典型”がスケッチされていることを紹介します。
まず、耳障りな音が消え、暗いトンネルを猛烈な速度で通り抜けたように感じ、自分の物理的肉体を抜け出て、ある距離を保った場所から、傍観者のように自分自身の物理的肉体を見つめている。（中略）
今まで一度も経験したことのないような愛と暖かさに満ちた霊……光の生命……が現れ、自分の一生を総括させるための質問を投げかける。生涯の主なできごとを連続的にしかも一瞬のうちに再生して見せることで、総括の手助けをしてくれる。そのうち、一瞬の障壁（バリア―）とも境界（ボーダー）ともいえるようなものに少しずつ近づいていることがわかる。激しい歓喜、愛、やすらぎに圧倒されるようになるが、意に反して、どういうわけか再び自分の物理的肉体と結合し、蘇生する。このような体験は。その後他人に話そうとしても、適切に表現できる言葉が見つからず苦労する。
この体験をしたあとで、自分の人生は大きい影響を受け、自分の人生の幅と奥行が深くなったように感じる。（69ページ）
河合さんはなぜ「死の体験」に心が動かされたのか？ その理由は、上記の“理論的「典型」”の最後にある、体験者が実感した「この体験をしたあとで、自分の人生は大きい影響を受け、自分の人生の幅と奥行が深くなったように感じる」、に込められていることが伝わってきます。
死ということに相当な体験が伴うらしいとは推論できるのである。あるいは、少なくとも、死んでゆく人が、死を次の世界に入るためのイニシエーションとして体験している、と推論できるのである。そして、そのような体験をした人がそのことによってその後の人生に大きい影響を受け、「ほとんどすべての人が、他人に対する一種独特の深みを持った愛情をつちかう努力が、人生においてたいそう重要であると力説している」。（70ページ）
上記引用のシチュエーションとは異なりますが、よく「死線を潜り抜けた人はどこか違う」といった言葉を耳にします。河合さんは、2006年に突然倒れ、意識不明のままほぼ一年後の2007年7月に逝去されています。ですから、河合さんご自身は「死の体験」を語ることができませんでした。ただし、ひょっとしたら、その間、上記のような体験をされていたのかもしれませんね。
多くの人は「死の体験」を語ることなく死を迎えます。ただし、私たちには「想像する力」が備わっています。「死の体験」に思いを巡らし、「他人に対する一種独特の深みを持った愛情をつちかう努力」をしっかりイメージし、実践につなげていこうと強く感じるところです。
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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