河合隼雄さんのエッセイ集である『こころの処方箋』の34番目のタイトルは、「どっぷりつかったものがほんとうに離れられる」です。
河合さんの当該エッセイ集は、55のエッセイで構成されます。この本は1992年に発刊されていますから、バブル崩壊を日本中が意識し始めた30年前を活写する、「歴史的エッセイ集」ともいえる本です。発刊されてすぐ手に取っています。一つひとつのタイトルはいずれも「珠玉の一言」であり、AIDMAのAttentionが喚起され、一気に読み通したことを思い出しています。そして、30年ぶりに読み返してみて、「人の心は変わらないなあ~」と感じていることを、申し添えておきましょう。
34番目のエッセイは次の言葉からはじまります。
人間関係のしがらみというものは、時にうとましいものである。自分の意志で行動するのが当然と思っていても、何となく目に見えぬ糸で縛られているようで、こちらの動きを拘束してくるのである。
河合さんは、2ページにわたって、A子さんの例を語ります。そのようなしがらみから自由になるために、それを一番感じさせる両親に対しても、なるべく世話にならぬことを、高校時代から心がけ、大学時代も奨学金とアルバイトによって、自活を通した人物です。
河合さんは「このようなことをやりぬくためには、相当な努力を要したし、それだけの能力も必要であったが、Aさんはそれに値する人であった」と、前半部で語ります。
そのAさんに恋人ができます。ところが、つき合っていくうちに、何となく関係がうまくゆかなくなります。そして、そのことを母親に相談すると…
二人の関係を決定的に破壊したのは、A子さんが恋人を両親に紹介した後で、母親が「あの人、何だか男らしくない人ね」といったことであった。母親にそう言われてみると、本当にそのとおりで、A子さんは一度に熱が冷めてしまった。
二人を似合いのカップルと思っていた人はA子さんの態度に驚いてしまった。友人が特に驚いたのは、「自立」しているはずのA子さんがいかに強く母親の意見に動かされるか、ということであった。
ここから、河合さんの「語り」が動き始めます。「このような例はあんがい多い」と指摘し、「しがらみから離れようと無理をしすぎるため、表面的には自立しているように見えても、深いところでひっついていたり、ともかくべたべたとひっつくことを期待していたりする」と述べ、「タイトルの言葉」の意味する内容が展開されます。
本当に離れるためには、一度どっぷりつかることが必要である。このことは人間関係ばかりに限らない。趣味などにしても一度どっぷりつかると、それと適当な距離をとられるようになる。中途半端なことをすると、「心残り」がするのである。
「なるほど…」と、納得できる言葉が届けられます。ところが、「言葉遣いのマジシャン」でもある河合さんの言葉は、これに止まりません。
もっとも、どっぷりつかるのと「溺れる」のとは異なる。溺れる人はやたらとあちこちにしがみつくが、そこを離れることができない。
メタファーとして「どっぷりつかる」と「溺れる」は、一見類似表現のようにも感じられますが、河合さんは、その違いを腑分けします。A子さんのような人について…
このような人は「どっぷり」体験をもたないので、それを基本として、人や物に対する距離をはかり、適当に離れていることが難しくなるのである。そして、知らない間に、どっぷりした関係の生じるはずのないところに、それを期待したりするので、人間関係がチグハグになるのである。
クライアントの「溺れてしまっている無意識の感覚」は、コーチングの深い対話を重ねていくことで、それが「気づき」として相対化されていくことがあります。
コーチとクライアントが、お互いの「どっぷり」体験を、少し苦みを感じつつ、楽しく語り合うセッションがイメージされてきました。このエッセイの〆の言葉を引用して今回の解説を終えることにしましょう。
幼少期に母親とうまく「どっぷり」体験をもった人は幸福である。しかし、それがなくとも、人間はその後の人間関係や、その他の世界との関係で「どっぷり」体験をすることができるものである。それは、その人の個性と大いにかかわるものとして、創造の源泉となることもある。
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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