河合隼雄さんのエッセイ集である『こころの処方箋』の9番目のタイトルは、「灯台に近づきすぎると難破する」です。「はて、何を言わんとしているのか?」と読者は疑問を感じ、意味するところは「〇〇〇だろう」と、ページをめくる前に、とりあえず「当たりをつける」ことでしょう。
人は疑問が生じると、それを解明したくなります。この本の目次には、55のエッセイのタイトルが、ずらりと並べられています。いずれもが「キャッチ―+謎」であり、まるで「推理小説集」を手に取っているような気持を覚えます。
9番目の書き出しは…
近所の人からも、同僚からも、「理想の夫」と呼ばれている男性があった。妻に対して理解が深く、妻が好きな職業をもち、のびのびと暮らすのを、よく支え、買物なども一緒に行き、家事を分担し、誰が見ても理想の夫というのにふさわしい人であった。そのため、彼の妻は、友人や知己からいつも羨ましがられ、彼女自身も、そのような夫を誇りに思っていた。
「物語のはじまり」です。当然、このまま進むとは思えないので、「ではどのように変化して行くのか?」となりますが、この夫はつまらないミスをしてしまうのです。そのこと自体は大きなことではなかったにもかかわらず、家に帰ることなくホテルに泊まってしまいます。妻はすぐホテルに駆けつけ、「そのくらいの失敗はまったく気にしていない、二人で心を合わせて生きていけばいいのだから」と慰めようとすると…
彼女が大変驚いたことに、彼は彼女に会いたくない、と言うのである。会社には気を取り直してゆくが、ともかく当分は一人でいたい、彼女と一緒に暮らすのは耐えられない、と言うのだから、彼の妻のみならず、周囲の人が理解に苦しむのも無理はなかった。あれほど仲がよかったのにどうしてなのか。
ここで読者は、続いての推理に至ることでしょう。頼まれ仲人で、彼の上司である人が彼に会って、その思いを聴き出します。この上司はコーチングの能力を有していたと想像します。
彼は「理想の夫」を演じ続けることに精も根もつき果てたのだ。そのために、会社でつまらぬミスをしたのであって、会社が嫌でもなんでもない。ともかく、家に帰って今までどおりの「理想の夫」として生きることは、もう辛くてたまらない、と言うのである。
ミスの原因は思わぬところから生じていました。そして河合さんは、タイトルの意味を明らかにします。
こんな話を聞くと、すぐに、だから人間は理想など持つべきではない、とか、理想など実際生きてゆく上で邪魔になるだけである、と言う人もある。
理想なしで人生を生きるのは、味気なさすぎる、と私は思っている。理想の光で照らすことによって、自分の生き方がよく見えてくる。しかし、理想は人生航路を照らす灯台であるが、それに至るべき到達点ではない。
灯台によって航路が照らされ、自分の位置がわかる。しかし、灯台に近寄りすぎると、船は難破するのではなかろうか。理想の夫そのものになった男性が破局を迎えたように……。
こうして読者の多くは「腑に落ちる」思いを抱くことになります。
実はこの事例は、臨床心理学で研究されてきた「自己理想・理想的自己」のことなのですね。河合さんも、このテーマについて学術書で論及しています。ただし、エッセイになると、スタンスを変えてわかりやすく紐解いてくれました。
今回の解説のまとめとして、このエッセイの最後のパラグラフを紹介することにしましょう。ベストセラー作家でもある河合さんの「冴えわたる“技”」が堪能できますね。
もっとも、最近は話がさらに複雑になってきている。水面下から潜水艦が出現してきて衝突、たちまちのうちに沈没などということもある。上方のみならず、足もとに気をつけることも大切、ということだろう。それにしても、水面下にまで注意を払わねばならなくなったのだから、現代人の人生航路は、実に困難に満ちていると言わねばならない。
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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