『<心理療法コレクションⅢ>生と死の接点』の著者である河合隼雄さんは、臨床心理学者(カウンセラー)ですので、その内容は、精神的な病を抱えた人との関係を語ることが多いのですが、それだけでなく、一般の人へと敷衍させ、社会、さらに西洋と対置させた日本文化という大きなスケールも含めて記述が展開されます。
今回のキーワードは、218ページからの「現代と境界」を取り上げます。
現代における「境界」の意味を論じるに当たって、まずわれわれ臨床家の間でとみに大きい問題となりつつある、境界例(borderline case)について少し触れてみたい。これは一応「病的」な現象であるが、現代の社会・文化的状況を考える上において、重要な手がかりを与えてくれると思うので、あまり専門的にならぬ程度に、その概略を説明しよう。(218ページ)
と語りが始まります。
たとえば…と前置きした上で、一見すると病的な症状を全くもたない、頭のいい、鋭い感受性をもった青年が相談に来たケースを河合さんは記述します。相談の内容は、ある大学の宗教学の先生の著書に惚れ込んだので、会社を辞めてその大学の大学院を受験して宗教学を研究したい、というものでした。
あまりに非現実的なので思いとどまらせるが、それからしばらくすると、自分が本当にやりたいことを治療者が無理にやめさせたので生きる意欲がなくなって最近は会社に行っていないと言いはじめる。その後、いろいろともめごとがあって結局は会社をやめる、次に大学院を受験するが失敗。そのうちに、よく考えてみると自分は大学院受験などするべきでなく前の会社に居て仕事を続けるべきであった。そのところを見抜けず「安易に自分をやめさせ、受験を強制した先生は、専門家として許しがたい」といって、猛烈に治療者を攻撃し始める。(219ページ)
「あらあら…」です。「受験を強制した」のはカウンセラーに変ってしまいました。さて、「専門職」であるプロのカウンセラーですから、このようなケースでも的確に対応していくのだろう、と想像しながら読み進めると…
治療者もはじめは落ちついて経過を話し合い、何も強制などしていないなどと言っているが、途中からムラムラと腹が立ってくる。何しろそのようなことが何回も続き、はては電話をかけてくる。速達がつぎつぎくるなどとなってきて、治療者も怒りを爆発させる。すると、「専門家のくせに、自分の感情をコントロールできないのか」などと言い出して、戦いはますますひどくなり破局を迎えてしまうこともある。(219ページ)
さて河合さんは、「境界例のある側面のみを記述したが…」と続け、専門家の立場で「境界例」という病名が登場した背景を説明します。
症状が悪化しているときに、それだけを見ると「精神分裂病(統合失調症…編者注)」と診断したくなる。ところがそれを過ぎて「安定」した状態のときは、「神経症」または「正常」とさえ言いたくなる。往時の精神病理学においては、精神分裂病と神経症との間に明確な一線が引かれ、両者を鑑別診断することが大変重要なことと思われてきたが、そのいずれとも診断し難い現象が生じてきて、それを「境界例」として、診断せざるを得なくなってきたのである。(220ページ)
河合さんはこのあと、現代の社会・文化の在り様と関連づけて考えます。「現代人の思考が、あまりにも明確に物事を区別して考えることに対する自然の側からの反発、あるいは挑戦として受けとめられないだろうか」と、論を進め、「立腹せざるを得ないことをどうしてこんなにうまく言うのだろう」と、感じさせる「境界例」の現出に対して、河合さんは一つの洞察を語ります。
境界例の人と話し合っていると、巧妙に組み立てられた二者択一的な論理によって、論理的に正しいようだが、現実とはまったく異なる判断を押しつけられそうになり、急にムラムラと怒りが湧いてくるときがあるように思う。これなど、現代人が用いてきた手法を逆手にとって、現代人を困らせようとしているのだと考えると、納得がゆく感じがする。(221ページ)
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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