事が起こるとあわてふためき、それでも「収まりがつく」場合とは…?

河合隼雄さんのエッセイ集である『こころの処方箋』の53番目のタイトルは、「“知る”ことによって二次災害を避ける」です。

このエッセイ集は、1992年の発刊ということもあって、タイトルにある「災害」は「雲仙普賢岳の大火砕流」について触れています。年頭の1月1日に、能登半島地震が発生しており、さまざま考えさせられます。

最近の雲仙の爆発にしても、大きい爆発の起こるのが、もう少し予知できていたら、人間の死亡数はもっと少なかったであろう。たとえ予知は難しかったとしても、火砕流というものがどんなものかを「知っていたら」、やはり、死者はもっと少なかったのではなかろうか。あるいは、地震は予防したり予知したりできないにしても、地震の際の火の始末や避難の方法などについて、人々が「知っている」か否かによって、二次被害は相当に避けることができるであろう。

河合さんは、2007年に亡くなっています。したがって、2011年3月11日に発生した東日本大震災は「知らない」のです。もし、その時存命であれば、上記「地震の際の火の始末」に加え、必ず「津波」の言葉を加えたでしょう。
2011年3月11日時点で、私たち日本人の圧倒的多数は、津波の恐ろしさを見聞きしておらず、「知っていなかった」のです。雲仙普賢岳が爆発した際、同様に「火砕流」の恐ろしさを、私たち日本人は「知るすべ」がなかったのです。

当該エッセイのテーマは、「心の災害」です。
1ページ目の最後あたりから、ある中学二年の男子と母親のエピソードが紹介されます。その男の子は母親を映画に行こうと誘います。珍しいことなので、母親は大喜びです。ところが、映画館に入る前に男の子の態度は一変し、急に冷たい顔になって、席は別、終わるや否や母親を残し、勝手に帰宅します。その落差に疑問を感じた母親が、帰宅して理由を聞いてみると…

映画館の前で同級生も来ていることがわかり、「お前、お母ちゃんと一緒だったたろう!」などと冷やかされるのが嫌なので、急に離れたことがわかった。母親は子供が一緒に映画を行こうと楽しそうにしていたときの顔と、後の冷たい顔とを思い浮かべ、思春期の男の子の微妙な心のゆれを知らされた思いがして、子どもが思春期を乗りこえてゆく困難に自分もつき合ってゆかねばならないのだ、と思ったという。

高齢者とされる年代の筆者(男)は、1992年当時の中学二年生の多くの男の子が抱いただろうこの感情は、よくわかります。ただし、少子高齢化が顕著に進んだ現代の中学二年生の男の子は、当時とは異なる感性に変わっているのでは…とも推測しています(笑)
河合さんは「二次災害」について、次のように記述を進めます。

この場合も、子どもの態度の変化の後で、その理由を「知る」機会をもったこと、母親が思春期の大切さを「知る」人であったことが二次災害を避けることを可能にしている。さもなければ、帰ってから母子で大喧嘩をして関係をこじらせたりするという二次災害を起こしただろう。

メタファーである「心の二次災害」を、このような事例で紐解く河合さんの「匠の技」が実感されますね。この後でも「知る」ことの意義を、さまざま解説する河合さんですが、起承転結の「転」は、次のように展開されます。

このように「知る」ことは大切だが、ここにも落とし穴があることをつけ加えておかねばならない。それは人間のことに関して「知る」ことが知的な理解だけに終わっているときは、それはかえって危険な状態を引き起こすことになるからである。このような危険は、心理学の本をよく読んでいる「勉強好き」の人に生じがちなことである。

コーチングは、100年の体系をもつ「心理学」をベースに、新たな「人間にかかわる専門職」として、今世紀に入り発展してきました。起承転結の「結」は、私たちコーチとしても、真摯に受けとめたいと思います。「大器晩成」の素晴らしさも実感できますね。

早すぎる知的理解は、人間が体験を味わう機会を奪ってしまうのである。さりとて、「知る」ことがなさすぎると、災害をどんどん拡大していって収拾がつかなくなってしまう。実際には、ある程度のことは知っていても、事が起こるとあわてふためき、それでも知っていたことがわっと役立ってきて収まりがつくという形になることが多い。


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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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