「母―息子モデル」はエイジズムにもつながっていく視点である!

前回まで、河合隼雄さんの『<心理療法コレクションⅢ>生と死の接点』にある、外国のファンタジーを取り上げてきましたが、今回は日本の小説です。河合さんは安岡章太郎さんの『ソウタと犬と』を引用します。「ソウタとは人間だろう」と、100%の人が即断すると思うので、まずそこから説明します。

ソウタとは、父の郷里の言い方で、袖なしのチャンチャンコのことだが、彼も彼の父も実はソウタが嫌いで一度も着たことのないものだったのである。しかも、継母は「おソウタ」というので、信太はよけいにイライラさせられるのである。(168ページ)

この小説は、「わたし」である信太が、自分の父親の再婚をアレンジした、その再婚家庭を訪問するところが描かれます。その父親は…「血色は、これまでになく良く、磨きこまれたようにかがやいており、頭髪はきれいに刈り込まれて、後ろへ撫でつけられていた」と、再婚して暫くのうちにすっかり変わっているのです。「おソウタ」も羽織っています。継母は18年間飼っている犬を連れてきて同居しているのですが…

継母は夫を大切にしている。一所懸命に世話をしていると言っていいだろう。しかし、信太はそれを見ていて何かイライラとしてたまらなくなるのである。その気持を端的に表現すると、「コタツで継母から犬の身上ばなしを聞かされながら、彼はついに、おやじは継母によって犬に飼育されてしまった、という幻想にとりつかれ、口をきかぬ父親の顔がセッター種の老犬に見えてきそうな気ばかりした」ということになる。
信太は「アテのない憤怒」を何とかして、継母に対して表現しようとする。しかし、老夫婦が朝の食膳の前に座っている姿を見ると、何も言えなくなってしまう。(169ページ)

河合さんは安岡章太郎さんのもう一つの小説『海辺の光景』も引用し、次のように語りを進めます。

これらの小説を読んで、日本人の夫婦関係の本質がうまく捉えられているのに感心すると共に、どうして日本人の老夫婦はこのようになってゆくのか、という疑問も生じてくる。(中略)
『ソウタと犬と』のなかに描かれているように、年老いた夫は妻の息子としての役割を背負い、手取り足取りの彼女の世話にただ黙って従ってゆくのである。そして、彼女自身が自慢するように、「おじいちゃんは見違えるほど、綺麗になったでしょう」と言われれば、だれも反対できないし、彼女を立派な妻として賞賛しなくてはならないであろう。(171ページ)

河合さんは、西洋の「父性社会」に対して日本は「母性社会」であり、夫婦の関係も、夫に対して妻が「母―息子モデル」となってしまう場合が多い、と指摘します。
河合さんは臨床心理学、社会学の視点で、「妻→夫(年老いた)」だけでなく、「男女に限らず、老人の子どもたちも含めた周囲の人→老人」というシチュエーションに広げ、次のようにコメントします。エイジズムにつながっていく視点であり、敏感な老人はそれに対してどう反応するのか…

老人を大切にしてゆく形によって老人の自由を奪うことに役立っている。このことに対して敏感に反応する老人はそれに腹をたてても、ともかく傍目には感謝すべき状態におかれているので、言語によってうまく反撥もできず、家庭内暴力をふるう子どもたちと極めて似通った行動パターンをとり、暴力や暴言を用いたりすることになってしまう。(172ページ)

病院や介護施設などで、年若い女性のスタッフが「老人」に対して、子どもに接するように声をかけている姿を見ると(日本ではこのパターンを不思議がるムードはまだ薄いようです)、河合さんの言葉に説得力を感じますね。

母―息子モデルは日本において非常に強力であるので、これから自由になることはなかなか難しい。もっとも、母―息子モデルが何につけても悪いということはなく、日本人の多くの人間関係は、この関係をうまく利用しているのだから、老夫婦の場合もこのモデルにうまく従ったり、それを楽しんだりして適当に生きている人もあるのは当然である。その場合は、夫婦のどちらかがある程度その関係を意識化して把握していることが必要で、母親役や息子役を演じつつ、それを楽しんだり、時にその役をつき離して見る余裕をもって生きているようである。(172ページ)


コーチング情報局を運営する株式会社コーチビジネス研究所では、企業を対象としたコーチング研修、ビジネスパーソンを対象としたビジネスコーチング、個人の方を対象としたライフコーチングを提供しております。その他、コーチングを学びたい方のためのコーチングスクールの運営、経営者やビジネスリーダー向けにセミナーを開催しています。興味や関心がございましたら、お気軽にご相談・お問い合わせください。

This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
Coach Business Laboratory, Inc., which operates the Coaching Information Bureau, provides coaching training for companies, business coaching for business people, and life coaching for individuals. In addition, we operate a coaching school for those who want to learn coaching and hold seminars for executives and business leaders. If you are interested or have any questions, please feel free to contact us for further information and consultation.

認定コーチ紹介サービス
ホームページ制作サービス
Certified Coach Referral Service
Web Site Creation Service