（中沢）
……僕にアメリカ人のカメラマンの友達がいて、日本の美を主題にいろいろ撮っています。彼はたしかに日本の美らしい美も撮っています。田植えのときの、きれいな伝統の飾り物を撮ったり、舞妓さんの姿やお刺身を撮っちゃったりして、いかにも日本的な美も撮っている。そして僕はそういうのはあんまり日本的美だとは思わない。
河合隼雄さんと中沢新一さんの対談を収めた『ブッダの夢』の第1章「仏教と癒し」の5番目の見出し「日本人の宗教性」の中にある一節を引用してみました。
前回は、中沢さんがこの見出しの書き出しで、世界で評価されている日本の哲学書である鈴木大拙の『日本的霊性』を絶賛しているところから始めています。中沢さんは「日本人の宗教性」を、鈴木大拙の視点を手掛かりに独自の解釈を展開します。外国人が「日本文化（宗教性も？）」をステレオタイプ的に捉えてしまっていることを一旦否定します。では中沢さんは「日本的美」を、何をもって象徴させているのか？ 引用の続きです。
ところが一枚だけ、これこそ日本の美だと思った。それは九州の山の中の温泉で、おじいさんが、後ろ姿で素っ裸でこうやって手拭いを下げてすっと立っている写真でした。
中沢さんはいきなり「素っ裸なおじいさん」を美であると指摘するので、筆者は面食らったのですが、河合さんも同様だったのか、「はあー。」という言葉が漏れます。ただ河合さんは、中沢さんの続く言葉でその意味を“瞬時に”受けとめます。
（中沢）
肩にあて湯しながら。このお尻（臀）の格好と、この手拭いの下げ方。これこそ、無理数だ。これこそ美だと僕は思った。
（河合）
なるほど、なるほど。
（中沢）
おそらく鈴木大拙が日本的霊性って言わんとしたのは、このお尻のことなんじゃないかなと感じるのです。
ここで数学の用語が登場しますが、中沢さんは東京大学理科二類、河合さんは京都大学の理学部数学科出身ですから、理系の専門家同士ということで「無理数」については、「一瞬で」理解できるわけです。
一応補足すると、有理数は分数で表すことができる数（整数や小数も含む）、無理数は分数で表すことができない数（√でしか表せない数や円周率など）です。
ちなみに、東大の場合「理二」に入学すると、理学部・工学部・農学部に進学するのが通常のルートですが、中沢さんは文学部宗教史学科に進んでいます。「文転」です。
河合さんは、高校の数学教師を経て、臨床心理学に「転進」していますから、お二人の「ウマは合う」ことが想像できますね。
中沢さんの「無理数」は、少し前の対話とつながっています。「美」というのは「感性」であり、人それぞれ捉え方が異なるのが「当たり前」といえるかもしれません。ただ「審美眼」も突き詰めていくと、そこに共通の「何かが存在する」ようにも感じます。「美」についても「異質の調和」が成り立つかもしれない…と、筆者は想像を膨らませています。
ここでの「無理数」は、河合さんがアメリカ人に向かって、「身振りや独特の英語」を使ってコミュニケーションを行っている姿のメタファーです。中沢さんはこの「無理数」を、さらに「日本的霊性」につなげます。
先ほどの話の関わりで言えば、日本的な霊性って何かというと、べつにそれは西田幾多郎の哲学とか、田辺元の哲学とか、そういうことじゃないんじゃないのかな。歩き方とか、おそばの食べ方とか、花の活け方とか、なんかそういうことにあらわれた日本的霊性って言うのかな。きっとアメリカ人は河合先生の身振りや独特の英語（笑）なんかを通して日本的霊性のあらわれを無理数として直観しているんだと思います。要するに、合理性で割り切れないものがここに実在している。これは、たしかに変だけれども、無理数だけれども、無理数はあいまいじゃない。ものすごくシャープななにかがある。√２はシャープですけど割り切れない。
次回は、“美”とコーチングについて考えてみようと思います。
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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