父の絶望は深かった。机やキッチンのテーブルで、ぼんやり考え込む日々が続いた。実際自殺することも頭をよぎったと、何かのインタビューにあったが、父は絶対そんなことをするキャラではない。転んでもただでは起きないタイプだ。必ず自分で折り合いをつけると信じてはいたが、「お母ちゃん」「多子(さわこ・私)」「真秀子(まほこ・妹)」「紀子(父の妹)」と、それぞれの名前が書かれたA4サイズの封筒が、本棚の間に挟んであるのを見た時には、何か遺書めいたものが入っているのではと、ゾッとした。……
吉本隆明さんの長女で漫画家のハルノ宵子さん執筆の『隆明だもの』は、30のエッセイと作家である次女の吉本ばななさんとの姉妹対談で構成されています。引用は、2番目のエッセイ「eyes」の半ばあたりの箇所です。
タイトルの「eyes」が示すように、晩年の隆明さんは糖尿病の三大合併症の一つである「網膜症」に苦しめられます。ここで少し疑問を感じ、30のエッセイのなかに他の二つの合併症、「腎症」と「神経障害」に関する記述はないか、チェックしてみました。それはどうも見当たらないのですね。
筆者の性向として、そのあたりが気になるのですが、仮に「腎症(腎臓透析)」と「神経障害」が伴っていたとしても、視力の喪失が、「読む」「書く」という隆明さんの“存在”そのものを直撃したことが「絶望」につながり、そのため、家族の記憶としても、また著述としても、「合併症の中で圧倒的に“物語化された”のが網膜症」なのではないか…と推測しています。深読みかもしれませんが。
ハルノさんは、続いて書き記します。
世界はどんな風に見えているのかと、父に尋ねた。すべての物が赤黒い夕闇の中にあるようで、その赤黒さが日に日に濃い闇に沈んでいく感じだという。もしも自分がそうなったら耐えられない。私だって眼を使う仕事で生きてきたのだ。本気で「“神”よ! 父の天寿が来る日まで(の限定で)、私の片眼を父に貸してください(あくまでも片目だけね)」と、ズルイ取引を考えてみたりした。
筆者の読書スタイルとして、感動した箇所に折り目を入れるクセがあるのですが、本棚にズラリ並んだ過去読んだ本のなかで「再読してみようか…」と、チョイスの判断をする場合、この折り目の多さで膨らんでいる本を手に取ってみる、という傾向があります。「一目瞭然」ですから。この『隆明だもの』は、感動の連鎖が続き、折り目だらけです(笑)。
ハルノさんは、ユーモアとペーソスを織り交ぜながら、父への愛を綴ります。絶妙のバランス感覚が、筆者の心を揺さぶります。
晩年、編集者が質問し、隆明さんが答えていくという形式の著作が増えていくのは、「網膜症」の悪化が背景にあります。「インタビュー」ですね。ただ、インタビューで創られているにもかかわらず、インタビューをまったく感じさせない秀逸な著作も存在します。その代表作が『今に生きる親鸞』です。つまり編集者は「完全な黒子」となり、すべて隆明さんが書き記している、というカタチを取っている本です。
コーチングの究極の姿は「コーチが触媒となれたとき」なのでは…と、強く感じるのですが、『今に生きる親鸞』は、そのことを明確に示してくれています。正直者の隆明さんは、「おわりに」で、そのことを暴露(笑)します。
はじめ講談社の竹内章二さんが「語る」親鸞の企画をもって来られたとき、余程よく考えなければ、この企画は成り立たないだろうとおもい否定的な気持ちを拭い去れなかった。だが竹内さんがわたしの親鸞についての論稿も読み、よく勉強もされ、語りで言及されず流れてしまった事柄も補って、これならば成り立つなというところまで、努力を重ねてくれた。
さて、ハルノさんの「eyes」に戻りましょう。「A4サイズの封筒」がとても気になります。このエッセイ最後の1行を引用し、今回を終えることにします。
どんな折り合いをつけたのか、父の本棚のA4サイズの封筒は、いつの間にか消えていた。
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This article was written in Japanese and converted into English using a translation tool. We hope you will forgive us for any inadequacies.
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